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端牌ダイアリー

 近所によく行く焼肉屋がある。帰りにいつも五百円分の割引券をくれるのだが、焼肉全品半額のサービス期間中は使えない。こちらが少しでも気を緩めるとサービス期間に突入するので、使いそびれた割引券がモリモリたまる。そして一ヶ月の使用期限を過ぎた割引券がモリモリ紙切れになっていく。これはゆゆしき事態ですよと店長にボヤいたら、
「だいじょぶヨー。古くなた券もつかていいヨー」
 と言ってくれたので、期限切れの券も捨てずに大事にとっておいた。

 こないだ行ったらサービス期間じゃなかった。ついに自分の時代がやってきた。高笑いをしながら店に入って五千円分呑み食いをして、割引券十枚をレジに叩きつけた。そしたら店長がとても面白いことを言った。
「ぜんぶ期限切れてるヨー! こんなばっちい券つかえないヨー!」
 遠くで少女の悲鳴が聞こえた。と思ったら自分の金切り声だった。いやいやいやちょっと待って下さいよクソオヤジ。アンタこないだ使えるって言ったじゃないの。
「そんなこと全然いてないヨー! これみんな紙クズだから、キムチと一緒に海に捨てるヨー!」
 キムチはお前んとこの売り物じゃないのか。ところで日本語お上手ですね。
「ニポン語で言ってあげるからよく聞くヨー! この券は、古くて、つーかーえーまーせーんーヨー!」
 調子に乗るな。けっきょく押し問答の末、半分の五枚は使用を認めてもらった。店長はオレの寛大さにひれ伏せとのたまって、残った五枚の割引券もひったくってキムチの壺に沈めた。

 確かに期限が切れているのだから、店長の理屈は筋が通っている。しかし理屈を越えた感情の部分では納得がいかない。使っていいって言ったじゃん。愛してるって言ったじゃん。
 使えなかった割引券は、キムチの壺に藻屑と消えた。次に店で食べるキムチは、自分の涙の味がするに違いない。
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