生牌ダイアリー
漫画の最終回を見逃して悔しい思いをすることがよくある。「B.B」というボクシング漫画の最終回も読んでいないし、「デカスロン」という十種競技の漫画の最終回も読み損ねた。「ありゃ馬こりゃ馬」という競馬漫画は単行本で読んでいたが、最終巻の一歩手前までを友人に貸したらソイツが全巻なくしやがった。ケチがついたので最終巻は買わなかった。漫画喫茶に行くのもネットで犯罪的に読むのも面倒なので、心残りではあるがいずれもほったらかしている。
電車の網棚に「リプレイJ」の第12巻が置いてあるのを発見した。コミックバンチで連載されていた漫画で、自分は毎週バンチを買って楽しみに読んでいた。それがある時から立ち読みに切り替えて、やがて立ち読みすらしなくなって、今では街でバンチを見かけてもお互い目すら合わせない。「リプレイJ」も最終回付近の数話を読んでいない。
第12巻は最終巻だったはずで、とても読みたい。読みたいのだが、うかつに手を出せない理由があった。
大学時代、駅前の広場で「ろくでなしBLUES」全巻セットを拾った。リュックに入れて持ち帰ろうとしたら物陰から中学生ぐらいの男子グループが湧いて出て、それは自分たちのものだから返してくれ、とぬかしてきた。どうやら小学生に拾わせて、因縁をつけてカツアゲをする腹だったようだ。まさか大学生のお兄さんが拾うなどとは思ってもみなかったようで、みんなで口に手を当ててアラまあどうしましょと慌てていた。まだ暑い九月の午後だった。
ここで「リプレイJ」を拾ったら、今度こそカツアゲされるかもしれない。しかし読めないとスッキリしない。読もうか。よし読む。いやでもカツアゲが。うっさいボケ。ボケってなんですかボケって。
一人でグダグダ言っていても始まらないので意を決して、頭をかくふりをして網棚に手を伸ばした。その手はしかし「リプレイJ」には届かなかった。
「待ちたまえ」
男の乗客が自分の手首をつかんでいた。別にカツアゲではないようだが、どこかで見覚えのある顔だった。男は言葉を続けた。
「網棚の本を掴むんじゃない。この手で未来を掴むんだ」
電車が駅に到着した。男は自分の手をつり革に戻して、ゆっくりと扉に向かった。自分は稲妻に打たれたように網棚の「リプレイJ」を取って、表紙を見た。扉絵の主人公・室伏と去りゆく男の顔を何度も見比べて、そして男に叫んだ。
「室伏さーん!」
むろん全然別人だったので振り向かなかった。「リプレイJ」も最後まで読んだ。よかったよかった。
電車の網棚に「リプレイJ」の第12巻が置いてあるのを発見した。コミックバンチで連載されていた漫画で、自分は毎週バンチを買って楽しみに読んでいた。それがある時から立ち読みに切り替えて、やがて立ち読みすらしなくなって、今では街でバンチを見かけてもお互い目すら合わせない。「リプレイJ」も最終回付近の数話を読んでいない。
第12巻は最終巻だったはずで、とても読みたい。読みたいのだが、うかつに手を出せない理由があった。
大学時代、駅前の広場で「ろくでなしBLUES」全巻セットを拾った。リュックに入れて持ち帰ろうとしたら物陰から中学生ぐらいの男子グループが湧いて出て、それは自分たちのものだから返してくれ、とぬかしてきた。どうやら小学生に拾わせて、因縁をつけてカツアゲをする腹だったようだ。まさか大学生のお兄さんが拾うなどとは思ってもみなかったようで、みんなで口に手を当ててアラまあどうしましょと慌てていた。まだ暑い九月の午後だった。
ここで「リプレイJ」を拾ったら、今度こそカツアゲされるかもしれない。しかし読めないとスッキリしない。読もうか。よし読む。いやでもカツアゲが。うっさいボケ。ボケってなんですかボケって。
一人でグダグダ言っていても始まらないので意を決して、頭をかくふりをして網棚に手を伸ばした。その手はしかし「リプレイJ」には届かなかった。
「待ちたまえ」
男の乗客が自分の手首をつかんでいた。別にカツアゲではないようだが、どこかで見覚えのある顔だった。男は言葉を続けた。
「網棚の本を掴むんじゃない。この手で未来を掴むんだ」
電車が駅に到着した。男は自分の手をつり革に戻して、ゆっくりと扉に向かった。自分は稲妻に打たれたように網棚の「リプレイJ」を取って、表紙を見た。扉絵の主人公・室伏と去りゆく男の顔を何度も見比べて、そして男に叫んだ。
「室伏さーん!」
むろん全然別人だったので振り向かなかった。「リプレイJ」も最後まで読んだ。よかったよかった。
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