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男と女のダイアリー 〜血脈〜

 11月18日は簿記3級の試験日だった。開始時刻は午前9時で、自分が起きたのは午前9時だった。試験会場までは約1時間なので、普通に考えれば受験は絶望的である。だが会場に行きさえすれば、開始時間が遅れている可能性も万に一つくらいはある。素敵なハプニングを期待して、身支度もそこそこにダッシュで家を飛び出した。
 メシ食ってコンビニで立ち読みをしたので、会場到着は11時30分だった。試験は完璧に終わっていた。あきらめて帰ろうかとも思ったが、それでは無駄足になってしまう。掃除のオッサンが会場の後片付けをしていたので、今から試験を受けられますか、と一応聞いてみた。相手にされなかった。通りすがりの受験生たちにも聞いてみたが、ざんねん次回にチャレンジだ! みたいな顔で笑われてしまった。お前ら全員落ちてしまえ。
 しばらく色々と聞いて回った結果、試験本部というものがあるらしい。そこへ行けば問題用紙だけはもらえるようだが、ついでに受験もさせて欲しい。試験の偉い人が勢揃いしている場所なので、最後の望みを託して本部に駆け込んだ。笑顔で出迎えた受付のお姉さんに、心の底からお願いした。
「お姉さん、ボクに試験を受けさせて下さい!」
「もう試験は終わったのでダメでーす」
 そんな事は分かっている。ダメなものをダメじゃなくすためにお願いしとるんじゃボケ、という切ない気持ちを押し隠して、土下座また土下座で懇願を続けた。すでに受験を終えた人から問題を教えてもらっていたらアナタ余裕で満点とれるでしょそれはフェアじゃないでしょ、のようなことをお姉さんから言われたので、そんなことはないですボクは問題が分かっていても0点を叩き出すくらいのぶっ飛びバカなんですだから大丈夫です、と反論した。そしたら
「そんだけバカなら試験を受けてもムダですよね」
 実に適切な指摘だった。怒りと焦りで曇っていた自分の眼前が、ふいに澄み渡っていくのが分かった。自分は冬の青空を吹き抜ける風のように、足取りも軽く家路についた。もちろん問題用紙はもらい忘れた。
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