2003年17号 第162話

【前回まで】

「Noォ…これはボクシングじゃない」
 誰がどう見たってボクシングだ。
「いやいや、ボクシングっしょ、それ」
「いやいやいや、違うって」
 押し問答の二人の笑顔が、見る間に引きつっていく。
 マネージャーの足を踏みつけてグリグリするミスター。
 ミスターの尻っぺたにヒザをかますマネージャー。
 マネージャーの下唇と鼻の穴を力一杯引っ張るミスター。
 ミスターの耳の穴に爆竹を突っ込んで火をつけるマネージャー。
 そして遂に怒れるミスターの右アッパーが唸りを上げた! 鮮血に染まった
マネージャー、してやったりの表情。「ほーらやっぱりボクシングだ」と言わ
んばかりのニタニタ笑いだが、そのグシャグシャのアゴではもう一生喋れまい。


 戦いに敗れたミスターがジムを飛び出した。
 ボクシングじゃ……ボクシングじゃないのに……!
 春風が、涙にくれるミスターの長い髪をふわと舞い上げる。うららかな陽気
の中、眠気に誘われた一台のトラックがミスター目がけて突っ込んできた。
「きゃっ!」
 思わず屈み込むミスター。しかしいつまでたっても衝撃はやってこない。お
そるおそる目をあける。
 神様が立っていた。ミスターが崇拝する、あの神様だ。
「ミスターや、顔を上げなさい」
「神様!」
「挫けることはない。そなたのボクサー人生はまだ始まったばかり……」
「ボクシングじゃねーっつってんだろ!」
 ミスターの怒りが爆発した!


ケース1
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