
2003年17号 第162話
【前回まで】
「Noォ…これはボクシングじゃない」
呆然とするマネージャーを振り返りもせず、ミスターはジムを後にした。
今でこそ敬虔なクリスチャンで、自作のキリスト人形を肌身離さず持ち歩く
ほどのミスターだが、かつては全米を震撼させた伝説のプロボクサーであった。
強いが、残酷。残酷さが、人を魅了する。
リング上で死に至らしめた相手は十数人。一度は死刑判決を受けたものの、
ファンの嘆願と辣腕弁護士団の尽力によって、奇跡の逆転無罪を勝ち取った。
その後はボクシングを封印し、芸能活動に専念する。CD23枚と主演映画16本の
ギャラで世界各国に100の別荘を持つという、極めてつつましやかな隠遁生活
を送っていた。
つまり。ミスターという男、『幻の死刑囚』なのだ。
その彼がニポンへやって来た。無論スパーリングのためだけではない。
警視庁公安部。一室に通されたミスターを出迎えたのは山田太郎・新警視正。
挨拶もそこそこに用件を切り出す。山田の話はこうだ。
一週間前。世界各国の死刑囚が五人、脱走した。ほどなくこの日本に集結す
るという情報をキャッチしている。いつぞやのクソ雑魚とは違って、今度こそ
本当に本当の超最凶・超グレートなイカした連中だ。
これに対抗すべく各界のエキスパートを招集し、特殊部隊を編成した。もち
ろん全員飛行機だけはカンベンだ。そこで……。
「ミスター。あなたに陣頭指揮をとっていただきたい」
ケース2
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