「一切の望みを捨てよ」と、ダンテは言った。
 ダンテ先生は、もっとポジティブに生きた方が幸せだと思います。ソープで
一発抜いた方がいいですよ。一緒に行きます?



 いやそんなにイヤならこなくていいです。ははは。ちなみに頭の葉っぱって
何のためにかぶってますか? 言いたくない? エロい目的ですか? だから
言いたくない? あ、じゃあ1個だけいいですか。する用ですかそれともされ
る用ですか? 後者? ほらエロいじゃないですかー!



 ダンテ先生、顔色悪いです。病院行きましょう。望みを捨てるなんて言わな
いで。前者でもちょっと使う? 葉っぱの話は今はいいです。希望を失った人
間はただの豚なんですよ。のび太くんだってそう思うでしょ? この半荘、ま
だまだあきらめてないよね? 逆転トップ、狙ってるよね?
 なあ、のび太!?


「ぶひー!」
 のび太はただの豚だった。ドラえもんの一撃を喰らって天井高く舞い上がり、
血の雨を降らせながら床に墜落した。
「メガトンアッパー」
 ドラえもんは秘密道具みたいな感じで言った。当然のび太も黙ってはいない。
「それは秘密道具じゃねーだろボケ! 流局にしろってドラもんが言ったクセ
に、なんで殴るんだよ!」
「のび太くんが人の話を最後まで聞かないからさ。その手は確かに九種九牌だ
けど、もう流すことはできないんだよ」
「えー!」
 のび太はポケットからゲームボーイアドバンスを取り出して、電子遊戯にう
つつを抜かしながらショックを受けた。
「ふーんそうなんだ。ちなみにどうして?」
「アカギがをアンカンしてるだろ。自分の第一ツモの前に誰かがポン・チ
ー・カンをした場合、九種九牌で流局にすることは出来なくなってしまうんだ。
これでのび太くんの勝ちの目は消えたも同然だけど、次の半荘で取り返せばい
いんだし楽勝楽勝。こんな馬鹿げた半荘、のび太くんが飛んでみんなの負け分
もぜんぶのび太くん持ちでとっとと終わらせちまおうぜ」
「うっせえこのポークチョップ! 俺が飛んだら自分は傷つかないからオーケー
か! のび太みたいな事言ってんじゃねーよこののび太!」
 のび太は婦女子のような金切り声をあげたが、誰かが背後からのび太の肩を
ポンポンと叩いた。
「誰だ! てめえものび太か!?」
 のび太が血相変えて振り返ると、それはのび太ではなく烈海王だった。孔雀
の羽でアカギを撫で回してなんとか笑わせようとしているが、顔だけのび太の
耳元に近づけてゴニョゴニョ囁いた。
「ここは私に任せておけ?」
 のび太は烈の言葉を反芻し、烈は力強く頷いた。
「ほーんーとー?」
 今まで烈の助けを借りて問題が解決したことなど一度もなかった。何にでも
ホイホイ首を突っ込む割には結局何にもできなくて、ご飯を食べて寝るだけの
烈だが、今回は烈に任せる事にした。のび太は真面目に麻雀を打つ気などかけ
らもなかったからである。
「わかった。ここは烈くんにすべてを委ねるから、一発でかい花火を打ち上げ
ておくれよ!」
 烈海王は無言で頷いて、邪魔な麻雀牌を脇にどかしてマットに右肘をついた。
そしてアカギに向かって人差し指をクイクイ動かしている。アカギと腕相撲を
やりたいようだ。ところで烈の肘の下には赤いボタンがあった。もちろん烈は
肘でボタンを押した。
 シュボッという音がして、烈の座っていた椅子のブースターが点火した。椅
子は離陸してビルの天井をぶち抜き、とうとう夜空に輝くお星様になった。
「ククク……」
 全てはアカギの計算通りだった。初対面からここまでのわずかな時間で、烈
の性格と行動パターンを完璧に把握してトラップを仕掛けたのであった。実際
には烈とは初対面ではないのだが、アカギは烈の顔など忘れている。
 神算鬼謀の冴え渡るアカギだが、そこに気の緩みはない。手牌と捨て牌、さ
らに裏に伏せたアンカンの二枚をぬかりなく確認した。

 ←カン

 どさくさに紛れて牌をすり返られた形跡もない。今までのやり取りから、対
面ののび太が国士狙いであったことは明らかだ。ここに至って、アカギはよう
やく勝利を確信した。こののみをアガればトップで半荘が終わる。そして
一度トップをとってしまえば、この場は完全にアカギの流れになる。のび太た
ちからむしり取ったケツの毛が、アカギの家の花壇に植えられて風にそよぐこ
とになるだろう。
「ククク……」
 アカギのツモはだった。ムダヅモの一枚や二枚、今さら痛くも痒くもな
い。アカギは余裕の笑みを浮かべて軽やかにを切り飛ばした。
「ロン」
 アカギの鉄壁のポーカーフェイスに、わずかな亀裂が走った。対面ののび太
が手牌を開いた。



「国士無双。32,000点の五本場は33,500点」
「やった! のび太くん、ナイスすり替え!」
 ドラえもんが身も蓋もないことを言った。アカギがカンしたがある以上
すり替えに決まっているのだが、役満をアガった事実に変わりはない。のび太
は何ら恥じることなく胸を張った。
「ボク、すり替えなんかした覚えは全然ないんだぜ! でも明らかにすり替え
だよねこれ! 自分でも気が付かないなんてすっごいテクだろ!」
 ちょうど椅子ロケットも雀荘に戻ってきた。烈が椅子に座ったまま、のび太
に惜しみない拍手を送っている。のび太の国士一色に染まった店内で、アカギ
だけはお通夜みたいにノリが悪い。
「……」
 アカギはのび太の国士無双をじっと見ていたが、やがてあきらめたように点
棒をのび太に投げてよこした。そして牌を真ん中の穴に落とす時、アンカンの
を一瞬ためらった後にチラリと裏返した。



「……フン」
 アカギは口の端をゆがませて、ぜんぶ穴に放り込んだ。
「さあのび太くん、せっかくの役満を無駄にする手はないぞ! 勢いにのって
奇跡の逆転トップだ! とりあえずこれでも呑んで景気をつけろ!」
 ドラえもんは興奮状態ののび太の口に大量のパチンコ玉を流し込みながら、
左手に握ったタンマウォッチをそっとポケットに戻した。時間を止める未来の
秘密道具だった。
「ま、たまにはね」
 ドラえもんは、誰にともなく、ポツリと言った。




 なんで不満がってるんですか。ドラえもんがのび太のために秘密道具を使っ
たからですか。一回ぐらいいいじゃないですか。なに人の不幸を期待してるん
ですか。鬼かアンタは。やっぱり人間には希望が必要なんですよ。ほらダンテ
先生も笑って笑って。



 それダンテじゃなくてダンペーですよね。だから何ですか頭大丈夫ですか?
やっぱりソープとか行ってスッキリした方がよくないですか?
 ところで今日知ったんですけど、銀座にダンテってキャバクラがあるらしい
んですけど行きます? 興味ない? じゃあいいんですけど、本人が来たって
なったら超盛り上がると思うんですけど。いい頃合いでバラしたい? それ行
きたいって事じゃないですか先生ー! じゃあお代はぜんぶ先生持ちでありが
とうございます! その後ソープも行く? 先生持ちでありがとうございます!
 人生ポジティブにやりましょうよ、ダンテ先生!


続く
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