「リーチをかけると、役がなくてもアガることができる。さらに裏ドラをめく
ることもできる。いいことづくめのようだけど、それ相応のリスクも背負わな
きゃいけない。世の中、うまい話ばかりじゃないんだよ」
 Kの説明が始まった。元気いっぱいの大音声が部屋の大気を震わせる。真面
目に耳を傾けるのび太だが、どこか釈然としない顔つきでもある。
「思いっきり声出してるけど、王様に盗聴されたら死刑なんじゃなかったっけ」
「いいのいいの。王様、たった今クビになったから」
「えー、そうなの?」
「家賃滞納でアパートを追い出されちゃったみたい。だからもう盗聴の心配は
いらないんだよ。ホント国際情勢ってやつは予断を許さないよね」
「そりゃ残念だなぁ。でも麻雀の勉強はやめないよ。他の国の王様からスカウ
トされるかもしれないからさ」
「うへー!珍しくポジティブだね、のび太くん。リーチのデメリットだけど、
まず牌の入れ替えができなくなる」
「どういうこと?」
「例えば、リーチをかけた後にドラをツモってきたとする。ドラは手の中に残
しておきたいなと思っても、それがアガリ牌でないなら、絶対にツモ切りしな
きゃいけないんだ」
「それじゃあ何か、ツモ切りしたドラを他の人間にロンされても指をくわえて
 黙っていろとでも言うのかよ」
 いきなりキレたのび太だが、話の流れに沿った美しい切れ方である。
「その通り。どんなに危険な牌でも、アガれないなら切らなくちゃいけないし
切った牌でロンされても、指をくわえて黙ってなくちゃいけない。ちなみにチ
ンコをくわえても特に罰則はないからね」
「そりゃ助かるな」
「第一ツモでいきなりリーチをかけることをダブルリーチダブリーといって
通常のリーチよりも点数がアップする。これ自体はリーチのメリットと言える
んだけど、その後いつまでたってもアガることができずに、あげく危険牌をつ
かんで自分以外の相手、つまり他家(ターチャ)の大物手にズドン、なんてい
うバカもたまにいるから、リーチをする際にはある程度覚悟を決めておくよう
に。さて、次はこいつを見てくれ」



「こんな形でリーチをかけたところに、をツモってきた。ちなみにはド
ラね。のび太くん、君ならどうする?」
じゃこの手はアガれないよね。だったら切るしかないんだろ」
「さっきから、こちらの期待通りの答えを返してくれるねぇ。一体どうしちゃ
ったの?」
「キミのことが大好きなんだよ」
「うへー! ま、どーでもいいんだけどね。このは、切りたくなければこ
うすればいい」

 ←カン

「リーチをかけた後でも、暗槓ならできるんだ。これで危険牌を回避すること
ができる。ただし、待ちの形が変わるカンはできない」
「なるほど。よく分かったよ」
「ウソつけ、全然分かってないだろ」
「分かったって言ってんじゃねーか! 俺のことまるっきり信用してないだろ
バカ! お前の親父なんか上海でマフィアの抗争に巻き込まれて死んじまえ!」
「そんな手の込んだことしなくたって、放っときゃ死ぬって。のび太くん、待
ちの形が変わるって、どういうことかな?」
「ごめんなさい、全然まったく分かりません」
「素直になれって言っただろ、怒りゃしないから。待ちっていうのは、文字通
り特定の必要牌を待っている形のこと。今から詳しく説明をするよ」

  

 二枚組の牌が三通り、卓上に並べられた。
「これみんな、あと一牌で順子が完成するよね。こういう二枚組を搭子(ター
ツ)
というんだけど、それぞれどんな牌が必要なのか、さあ答えろ!」
「えーと。の搭子はがあれば順子になるな。で順子が完
成。は……かな」
「それだけかな?」
「ああ、でも順子になるんだね。ホント麻雀って日常生活の役に立たない
暇つぶしゲームだよな」
「うん、僕もそう思う。のように、両側の二牌で順子になる搭子を両面
搭子(リャンメンターツ)のように真ん中の一牌で順子になる搭子を
嵌塔(カンター)のように端っこの一牌で順子になる搭子を
辺搭(ペンター)っていうんだ。辺搭になるのは一、二と八、九だけだからね」
「何言ってんだか全くわかんねー。まぁ、実際に打ってれば理解できると思う
よ。搭子っていうのは、順子になる牌だけなの?」
「その通り。搭子以外の待ちの形には、こんなのがある」

 

があれば刻子と雀頭の組み合わせになり、
があれば雀頭、つまりアタマが完成する。のように
どちらかがアタマ、どちらかが刻子になる待ちをシャンポン待ちまたはシャボ
待ち、のようにアタマのみを待つ形を単騎(タンキ)待ちという
んだ。両面搭子の両面待ち、嵌塔の嵌張(カンチャン)待ち、辺搭の辺張(ペ
ンチャン)
待ちと合わせて、麻雀には全部で五種類の待ちの形がある、という
わけ。それじゃあクイズといこうか」


続く
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