南一局、親はドラえもん。のび太の配牌を覗き込んで、ドラミは歓声をあげ
た。
「のび太さん、最高の配牌じゃない! この手をアガったら、お兄ちゃんやセ
ワシさんなんかギッタギタのクソミソの勃起不全なんだから! まずは、これ
切って」
 のび太の第一打、

「この手って、そんなにすごいの? 最凶死刑囚に例えたら誰レベル?」
「サイキョウ死刑囚ってなによ。この手で特筆すべきは、点数よりもスピード。
次のツモでテンパイしちゃうんじゃないかしら」
「テンパイって何? サラブレッドに例えたらサイドワインダーぐらい?」
「それキンパイの優勝馬じゃない。後で説明するからちょっと待ってて。はい、
リーチ!」
 のび太の第二打、。このを、ドラミは横に向けて場に置いた。



「ん? なんでこの牌だけ横向きに捨てたの?」
「これが、のび太さんのさっきの質問の答え。役のない手は、ツモはできるけ
どロンはできない。でも、リーチと宣言して牌を横に向けて千点棒を卓の上に
出せば、立直(リーチ)という役が成立するのよ。つまり、これでロンが出来
るようになったのよ。本当は持ち点が1,000点未満ではリーチはかけられない
んだけど、のび太さんは初心者だから大目にみてあげようよ。ね?」
「なんでもえーよー」
「知ったこっちゃねーよー」
 ドラえもんにもセワシにも異存はない。めでたくリーチ成立である。
 セワシの第ニ打、。三巡目となって、ドラえもんの第三打、
「のび太さん、私がこれから捨てる牌を、よーく見てね」
 ドラミの第三打、。のび太は喉の奥から、死にかけたカラスのような声
を絞り出した。
「ロ、ロン!」
 自分でも信じられないといった表情で、手牌を倒していく。

 ←ロン

「あの、その、リーチのみ!」
「違うわよのび太さん、リーチ一発よ!」
 ドラミがのび太の肩を揺さぶりながら訂正する。
「リーチをかけて、次に自分がツモるまでにロンできたら、なんと点数がアッ
プしちゃうのよ。ちなみに、リーチ後最初のツモでアガった場合はリーチ一発
ツモになって、さらに点数アップ。でも自分のツモ番がくる前に誰かがチーや
ポンをしたら一発の権利はなくなっちゃうから、気をつけて。まだ続きがある
わよ。リーチのメリットはこれだけじゃないの」
 興奮さめやらぬのび太を横目に、ドラミが王牌に手を伸ばした。ドラ表示牌
を山から降ろし、下の牌を表に返した。
「リーチをかけてアガった時は裏ドラといって、ドラ表示牌の下の牌もドラに
なっちゃうの! ただし、アガった本人がリーチをかけていなかったら、他の
人がリーチをかけていたとしても裏ドラをめくることはできないのよ」
 裏ドラ表示牌は。よって裏ドラはということになる。
「残念、裏ドラは乗りませんでした。まあ仕方がないわよね。初アガリおめで
とう! はい、3,200点」
 南二局、のび太がドラミに48,000点の振込み。トビで終了。
「ボク、海綿体に血液が集中してまーす!」
 二枚目の借用書にサインをしたためるのび太の心はしかし、例えようもない
達成感と充実感に満たされていた。たかだか3,200点の、他人から見ればほん
のちっぽけなアガリかもしれない。だがのび太は、この日を決して忘れること
はないだろう。九連宝燈(チュウレンポウトウ)という役満をのび太が知るの
は、もう少し先の話である。
 おめでとう、のび太。次はキッチリ九連あがろうな。

【九連宝燈】


からまで全ての萬子でアガれる究極の役満。



続く
戻る

TOPへ