未来のだっさい洋服を脱がせて気道を確保すると、セワシも幾分楽になった
ようだ。それでも危険な状態であることに変わりはない。
 何故もっと早く助けてやれなかったのか。悔恨の涙を流すドラえもんは、手
に持った未来のだっさい洋服でグイと自分の顔をぬぐった。その未来のだっさ
い洋服を再びセワシに着せ、タイムふろしきでセワシごと包み込んだ。
 数秒後、キズの癒えたセワシが包みを解いて立ち上がった。右手を高々とか
かげて全快ぶりをアピールする。未来のだっさい洋服も新品同様だ。のび太が
駆け寄って、セワシを力強く抱きしめた。
「セワシくん、復活おめでとう! 未来の超カッコイイ洋服もバッチリ似合っ
てるよ!」
「そうか、21世紀のモンキーにもこのセンスが分かるか! ところで、俺がく
たばっている間に麻雀の勉強はどこまで進んだんだ?」
 ドラミが出木杉家でのあらましをざっと説明した。話を聞き終えたセワシが
窓枠のふちに手をかけ、夜空を見上げて長い息を吐いた。
「出木杉も、しょせんは小学生だったか……」
「そうなのよ。何が面白いのか知らないけど、あははははアハハハハって笑っ
てばっかり。耳障りでしょうがなかったわよ。爆風で吹き飛んだ時も下半身露
出状態だったし。性欲処理のバリエーションが貧弱なのよね。つまんない男!」
「それで、出木杉の変態エロDVDの1枚ぐらい持って帰ってこなかったのか?」
「のび太さんの家って、パソコンもDVDプレイヤーもプレステ2もなーんにもな
いのよ。22世紀の秘密道具じゃこんな古くさいメディアなんか再生できっこな
いし。パパさんとママさんはセックスレスだし、ほんと娯楽のない家族よね」
 返す刀で野比家をぶった斬った。のび太は猛然とドラミに反論する。
「パソコンとプレステ2ぐらい持ってるよ! 学校に持って行っちゃったから
家にはないんだけどさ」
「学校にそんなもん置いといたら即没収だろ、ふつー」
「ドラえもんは素人だなぁ。ウチの小学校はリベラルな校風が売り物で、銃火
器の持ち込みもOKな上にホームレスが日替わりで校長やってんだぜ」
「それはもはや学校とは別の代物だね。セワシくん、そういう訳で出木杉くん
にはポンとチー、それにカンを教えてもらったよ」
 セワシがメモ用紙にペンを走らせて、のび太に手渡した。
「そこまでルールが分かったのなら、もう牌を伏せて打てるよな。一応、ゲー
ムの大まかな流れをまとめたから、目を通しておけ」

1:場を決める
   ↓
2:起家を決める
   ↓
3:山を積んで、サイコロを振って配牌をとる
   ↓
4:親の捨て牌からスタート。以後、ツモorポンorチーorカン
   ↓
5:アガリor流局。親のアガリなら連荘、それ以外なら親権移動して次の局へ
   ↓
6:全員が親を二回担当するまで、3以降繰り返し
   ↓
7:半荘終了。一番点数の高い人間がトップ。1or2から再スタート

「ルールによっては連荘の条件が他にも幾つかあったり、誰かの点数がマイナ
スになったらその時点で終了だったりもするんだが、それは追々説明するから
な。それじゃ、始めるか」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
 社会復帰早々、何様のつもりかその場を仕切り出したセワシにのび太が待っ
たをかけた。
「始めるったって、僕まだ役って奴を何一つ知らないんだよ。そんな体たらく
で牌を伏せて真剣勝負なんて、できる訳ないだろ」
「泣いてんだよ……」
「え?」
 それまでの快活な調子から一転、セワシの刺すような視線がのび太を捉えた。
セワシの後ろに、いつの間にかドラえもんとドラミが立っていた。
「寒い寒いって、泣いてんだよ……」
「いや、だから何が泣いてんのさ?」
 三人は懐から財布を取り出した。どの財布もお札がギッシリである。ドラミ
に至っては、がま口それ自体が国宝級のダイヤでコーティングされている。
「もっとお金が欲しいって、俺達の財布が寒がってんだよ! のび太てめぇ、
財布が凍え死んだらどう落とし前つけるつもりだ!?」
「借用書一枚ぽっちじゃ、せんべい布団にもならないのよ。ちょっとぐらい肝
臓摘出したからって、あんま調子こかないでよね」
「ごたくを並べる暇があったら、さっさと席につこうぜ、のび太くん。役は打
ちながら説明してあげるから、なんにも心配しなくていいからね」
「わかったよみんな!」
 のび太の目に涙が光った。今日までの人生で、これほど人に必要とされた記
憶は皆無といってよかった。感激に打ち震える体を卓に預けて、元気よく牌を
かき混ぜ始めた。
 もう大丈夫だ。僕にはこんなに素敵な友達がいるじゃないか。


続く
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