「と、いう訳なんだってさ。みんなに見せたのが、その時の翡翠らしいよ」
 のび太は大きく伸びをして、烈のヨダレでベトベトの耳をぬぐった。鼻が赤
いのは泣いたのではなく、退屈のあまりに鼻クソをほじり過ぎただけである。
 烈の長話が終わったのを見て取って、ドラミがヘッドホンを外した。メタリ
カのCDをケースに戻して、烈にねぎらいの言葉をかけた。
「烈さんも、色々苦労してんのねぇ」
 烈は何度もブンブンうなずいて、拳を握りしめた。拳の中でパキンという音
がした。
「ボケる素振りも見せなかったね。疑うようなこといってゴメンね。でもさ、
アンタの今持ってるのって、翡翠じゃなくて松ぼっくりなんだけど。そこんと
こどーなのよ」
 ドラえもんの指摘に、烈は笑い出した。誰がどう見たって翡翠じゃないか。
貴様の目は節穴かとばかりに、握った拳を再び広げる。松ぼっくりはバラバラ
に砕けていた。
 瞬間、烈の額に青筋が走った。松ぼっくりじゃんこれ! すり替えられた!
血相変えて立ち上がり、コーナーポストで泡を吹いているセワシの胸倉をつか
んだ。犯人はお前に違いない。吐け! 翡翠のありかを吐きやがれ!
 すさまじい連打を食らわすが、セワシは口を割らない。気絶しているとはい
え大した根性だ。未来のだっさい洋服のポケットも空っぽだった。
 しばらく部屋の中をドタドタ無意味に走り回っていた烈だが、指をくわえて
口笛を吹き鳴らした。間髪いれずに、開け放した窓から外に飛び出した。
 庭に降り立った烈に、のび太が上から声をかける。
「烈くん、今のって、金斗雲を呼んだのー?」
 鼻息も荒く、烈は首を縦にふった。
「金斗雲、いつ来るのー?」
 世にも哀しそうな顔で、今度は首を横に振る。分からないらしい。バツが悪
くなったのか、背中を向けて自分の脚で駆け出した。
 烈の後ろ姿が宵闇の街中に溶けて、消えていった。


「結局なにしに来たんだろ、あの人」
「さて、そろそろ麻雀やろうぜ麻雀。おらセワシ、起きやがれ!」
 ドラえもんはドラミの質問には答えず、セワシの縄をほどいて一本背負いで
床に叩き付けた。


続く
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