街の中心部は小高い丘となっており、出木杉の家はその頂上付近に建ってい
る。平地との高低差が50メートル程もあるので、ふもとの住宅街の様子が一望
できる。野比家に群がる野次馬だのパトカーだのを出木杉の部屋の窓から眺め
つつ、四人は大爆笑中である。コンビニで買ってきた缶ビールをあおりながら
のび太が嬉しそうに言った。
「すごいなー。あのポリス全員で、実況見分とかやっちゃうんだろ? 僕の部
屋のSMスナイパーとか、見つかったら何言われるかなぁ」
「のび太さん、安心して。さっき部屋の中でお肉を焼いたついでに、SMスナイ
パーも家財道具も全部燃やしちゃったから」
「やったぜドラミちゃん、ナイスバーベキュー!」
「うふふ」
 玄関の前で、現場の責任者らしき警官とのび太の両親が何事か言い争ってい
る。パパが右手の人差し指と親指で輪っかをつくって警官に食ってかかる。一
瞬、腰の拳銃に指をかけた警官だが、怒りと絶望の表情で部下を呼び集め、そ
ろって退散してしまった。
 出木杉は双眼鏡から目を離した。
「あはははは。のび太くんのパパ、なんか国家権力に盾ついてるよ」
「家宅捜索するんなら入場料を払え、とか何とか言ったんだろ。払わない方が
悪いんだそんなもん。ところでドラえもん、あのキャンピングカプセルは最初
からぶっ壊れてたんだって?」
「そうそう。支柱の真ん中あたりに自分で切れ目を入れておいたの、すっかり
忘れてたよ」
 ドラえもんが、ビールのつまみのドラ焼きをむさぼり食いながら答えた。セ
ワシなんぞ心からどうでもいいといった食欲である。
「なあんだ。あれって作られたハプニングだったんだね」
「そういうこと。出木杉くん、そろそろカンの説明を頼むよ」
 野比家の騒ぎが収まったのを見届けて、ドラえもんは出木杉に声をかけた。
「あはははは。任せてくれたまえ! 他では絶対見られない、出木杉オリジナ
ルのカンをご披露するよ!」
「普通のカンの説明でいいからね。のび太くん、準備はいいかな?」
「あんだとテメー! 誰のおかげで酒が呑めると思ってんだコラ!」
 10缶めのビールを一気に飲み干し、のび太はモニターの前で大の字に寝ころ
んだ。口からよだれを垂れ流し、目の焦点も定まらない。麻雀を勉強するには
最高のコンディションである。
「誰のおかげって、缶ビールはドラミのお金で買ったんだろ。ちゃんとお礼を
言っときな」
「ドラミちゃん、この借りは戦場で返すであります!」
 仰向けのままドラミに向かって敬礼のポーズをとる。ドラミがにっこり笑っ
て、首を横に振る。
「いいのよ、のび太さん。お返しはさっきもらったから」
 のび太のわき腹あたりにクッキリと手術の痕が残っているが、泥酔したのび
太は気がつかない。
「マジでマジで! おい出木杉、ドラミちゃんにもカンを教えてやれ!」
「あはははは。ポンやチーとは違って、カンにはいくつかバリエーションがあ
るんだ。まずはモニターを見てくれ」


続く
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