「いやー、自分を開放するのって、意外と快感なんだね。癖になっちゃいそう
だよ」
 カメラの前で、のび太が吐息を漏らす。ドラミがシャッターを切るたびに、
なまめかしく体をくねらせる。もちろん全裸のままである。
「あはははは。僕としては、なるべくヤラセっぽいのは避けたいんだけどね。
のび太くん、これからも隠しカメラを意識せず、できる限り自然にふるまって
くれたまえ」
「もっちろんさ! 素顔ののび太が一番魅力的だよね!」
「それじゃ、麻雀講座を再開しようか」
 大股を開いて局部をレモンで隠しているのび太を促し、出木杉がモニターを
指し示した。
「さっきの質問からいこう。のび太くんは、面子をつくる為にまず何をする?」
「もちろん、牌をツモるさ。決まってんだろ?」
「正解だけど、他にも方法があるんだ。例えばこの手」



「これがのび太くんの手牌で、上家(カミチャ)を切ったとする。のび
太くんはを持っているから、があれば
順子ができるよね。こういう時は、上家の切ったを貰うことが出来るんだ。
これをチーという」
 いったん言葉を切って、出木杉がコントロールパネルのボタンを押す。

 ←チー

「もちろん、でもチーできるからね。チーと発声して相手の
いただいて、手の中のと一緒に表に返して卓の右隅に移動させるんだ。
その後、手の中から一枚捨てることになるんだけど、この時はツモっちゃいけ
ない。すでに相手から一枚もらってる訳だから、さらにツモったら手牌が一枚
多くなっちゃうからね。どう? のび太くんはバカだから、ここまで全然理解
できてないよね?」
「そう思うんだったら、バカにも分かるように説明しろよ」
 のび太が冷静に切り返す。バカ呼ばわりごときでへこたれるようなやわな人
生は送っていない。
「あはははは。バカの気持ちは僕には全然分からないや。そうそう、上家って
いうのは自分の左側の人間、つまりのび太くんを東家とした場合、北家のこと。
正面の西家は対面(トイメン)、右側の南家は下家(シモチャ)という。チー
できるのは、上家の捨てた牌だけだからね。対面や下家がを捨てても、こ
れはチーできない」
「なんとなく分かったよ。つまり上家がチーできる牌を捨てたら、何も考えず
にチーすればいいんだよね」
 ドラえもんのビームサーベルが再び唸りを上げた。かすめたのび太の前髪が
ゼンマイみたいにとぐろを巻いて、焦げ臭い匂いを辺りにふりまいた。温厚な
のび太もこれには怒った。
「あぶねえよ! 俺が死んだら、遺族になんと言って詫びる気だ!?」
「のび太くんがあんまり短絡的なことを言うからさ。何でもかんでもチーした
ら、後で困ることになるよ。これから説明するポンやカン、それと今のチーの
ような行為を総称して鳴きと言うんだけど、一度でも鳴いてしまったらその手
にはさまざまな制約がつくんだ」
 ドラえもんのフォローを受けて、出木杉が再び画面を切り替える。



 両手をバッテンに交差した白塗りの男が大写しになった。
「ドラえもん、これ誰?」
「誰だっていいだろ。鳴いた場合のデメリットだけど、まずは手作り可能な役
の数が減る。例えば、のび太くんの部屋でもちょっと触れたけど、メンゼンツ
モができなくなる。全く鳴いていない状態、つまり13枚すべてが自分の手元に
ある状態をメンゼンっていうんだ。後で説明するけど、平和(ピンフ)や立直
(リーチ)もメンゼンでないと作れない」
「どっかで見たことあるんだけどなぁ。一万円札の人?」
「どうやったら福沢諭吉に見えるんだよ。もう一つ。鳴いてしまうと上がった
時にもらえる点数がぐっと少なくなる。2,600点が2,000点になったり、12,000
点が8,000点になったりね。だから鳴かなくても役が作れそうな時は、なるべ
くメンゼンのままで手を進めていった方がいい。状況にもよるんだけどね」
「思い出した! ゴルゴダの丘で磔になった人だろ、これ!」
「もう、それでいいよ。半分くらい当たってるし。それじゃポンの説明に移ろ
うか。出木杉くん、バトンタッチ」


続く
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