出木杉英才。のび太のクラスメイトにして、学校一のエリートの誉れ高い天
才児である。
 部屋をざっと見回すだけでも彼の俊才ぶりがまざまざと窺える。よく整頓さ
れた勉強机に、本棚の半分を占める参考書と文学書。もう半分を占める洋物の
エロDVDも、もちろん直輸入のオールイングリッシュである。
「僕のホームページで、のび太くんとドラミちゃんの動画を配信中なんだ。見
てくれ、この世界中からの大反響を!」
 机の上にPCモニターが置いてあった。さまざまな言語でチャットの文字が流
れており、出木杉は最新のメッセージに返信した。
「ハイ出木杉、ボーイとまぐわっている黄色い物体はなんだい? メスで切り
刻んだらどんな声で鳴くんだい?」
「あはははは。黄色い方にそんな事したらトムの一族全員死ぬよ。ボーイだっ
たら1万ドルで売るからいくらでも試していいよ」
「てめー!」
 のび太の全身包帯が炎に包まれ、一瞬で燃え尽きた。怒りでケガが全快した。
「そんなに怒るなよのび太くん。のび太くんの名義で日本中の大企業にファッ
クスも送っているんだよ!」
 出木杉の視線の先では、両端をテープで止めた紙の輪がファックスをぐるぐ
る回っている。
「いたずらファックスを送るやり方じゃねーか! どこに送ってんだよ!?」
「アソコとアソコとアソコとアソコ」
「あらやだー! バレたら死すら生ぬるいー!」
「あはははは。それじゃあこっちの動画を送りつけた方がよかった?」
 出木杉は動画を再生してのび太に見せた。


 深夜の校庭に忍び込む一つの影。のび太である。
 辺りの様子を窺い、バラの花壇にマンドラゴラの種を植えていく。
 一粒植えるごとに、これは俺の憎しみだ、とか、これは俺の哀しみだ、とい
う陰気なつぶやきが聞こえてくる。


「部屋の盗撮だけじゃねーのかよ!」
「あはははは。のび太くんの行くところには常にカメラがあると思っていいか
ら安心したまえ。ね、ドラミちゃん」
「さっすが出木杉さん、頼れるわー」
「出木杉くん、そういう訳でのび太くんの麻雀の特訓に付き合ってくれよな」
 部屋に戻ってきたドラえもんが言った。下の階から金目の物を大量にくすね
てきたが、いつか返すつもりなので大丈夫だった。
「お安い御用さ。のび太くん、僕と一緒にレッツ・スタディだ!」
 どこまでも爽やかな出木杉である。こういう男が酒の席にいると、場が盛り
下がることおびただしい。


 壁のモニターに麻雀牌のCGが映った。真ん中のモニターだけはのび太とドラ
ミのままである。
「どうだい、ワイプみたいでカッコいいだろ!」
「見づらいからせめて隅っこにしろバカ」
「あはははは。バカにこんな事ができるかな?」
 出木杉は真ん中のモニターに手を当てて右下におろした。するとモニターの
映像も手の動きに合わせて右下に移動した。
「出木杉くんはすごいなあ。こんなハイテクは22世紀にもちょっとないよ」
 ドラえもんとドラミは素直に驚いているが、この程度の事もできない22世紀
はちょっといやだ。
「そうなの? 22世紀ではこんなの珍しくないんじゃないの?」
「未来っていっても、しょせんこの時代と大して変わらないんだよ。主食は麦
だし便所は汲み取りだし。ロボット? タイムマシン? そんなの実現不可能
に決まってるじゃん。寝言もたいがいにして欲しいね」
「ふーん。まあその内なんかいいことあるよ」
 モニターの麻雀牌が13枚の手になった。出木杉が言った。
「それじゃあまずは鳴きの説明からだよ。モニターに注目してくれ」



「これがのび太くんの手牌だとする。面子をつくるためには、何をすればいい
んだっけ?」
「こうするんじゃ!」
 裂帛の気合いと共に、のび太が巨大なハンマーを出木杉に振り下ろした。
「のび太くんはおっちょこちょいだなー!」
 微動だにしない出木杉の目の前で、柄を真っ二つに切られたハンマーが床に
転がった。ドラえもんの手に握られたビームサーベルから、わずかに煙が立ち
昇った。
 数瞬後、のび太の衣服が無数の布切れと化して四方に舞い散った。全裸のの
び太もなぜか宙に舞って、スローモーションで地上に落ちた。


 出木杉はのび太の尻にハンマーを挿して記念写真を撮り、ホームページに掲
載した。すぐにチャットに反応があった。
「ハイ出木杉、ボーイのおケツから生えているのはハンマー? それともハン
マーヘッドシャーク?」
「あはははは。どっちか確かめたいなら5万ドルでどうだい?」
「ワタシの股間のハンマーヘッドシャークが共鳴してるのー!」
 取引はめでたく成立した。


続く
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