一位ドラミ、二位セワシ、三位ドラえもん、そしてケツがのび太。セワシと
ドラえもんは共に25,000点だが、同着の場合は起家に近い方が優先されるとい
うルールを採用している。よって、起家のセワシが二位扱いとなる。
セワシがドラえもんに頭を下げる。
「ドラえもん、悪いね。下働きの奴隷ロボットという身分を肝に命じて、ここ
は俺の顔を立ててやってくれ」
「のび太くんがトップじゃなければ、なんだって構わないよ」
「わはは、それもそうだな」
ドラミがのび太の手を握りしめて、惜しみない賛辞を送る。
「でも、のび太さんだって立派に闘ったわよ。もう私たちから教えることは何
もないわ!」
「うん、今の勝負は本当に紙一重だったよね。僕、もうプロ級?」
「プロもプロ、ジャイアンだろうが範馬勇次郎だろうが、のび太さんにかかっ
たらこうなんだから!」
ポケットからオバQのぬいぐるみを取り出すと、両手で一気に引き裂いた。
綿の飛び出した胴体を床に叩きつけ、ドタ足で激しく踏みつける。鋭い歯でさ
らに細かく噛みちぎり、もはや原型をとどめない布クズを窓から放り捨てた。
「のび太さん、レッツゴー! 地球の平和を、愛するしずかちゃんの貞操を守
るのよ!」
「うおー!」
勇躍立ち上がったのび太を、セワシが首根っこをつかまえて制した。
「ドラミ。こんな奴でも一応はご先祖様なんだし、最低限の面倒は見てやらな
いか?」
「えー」
露骨に嫌な顔をするドラミだが、無能な男を跪かせて調教するのは嫌いでは
ない。無駄とは知りつつ、のび太に若干の猶予を与えることにした。
ドラミに礼を言い、セワシが牌を手に取った。
「よし。それじゃあ、面子と雀頭の説明だ。麻雀のアガリ形は四つの面子と一
つの雀頭から構成されている、というのはドラえもんから聞いたよな。面子に
は、順子(シュンツ)に刻子(コウツ)、槓子(カンツ)の三種類がある。順
子というのは、数が連続する同じ種類の牌が三枚一組になった面子のこと。例
えば」
「のような面子が、順子。順子にならないパターンは」
「萬子なら萬子だけ、筒子なら筒子だけでつくること。9と1はつながらない。
数字だから、当然字牌ではつくれない。のび太、理解できたか?」
のび太は『片山まさゆきの麻雀教室』を熟読中である。
「ファック! 人が好意で教えてやってんのに、完璧シカトして独学か! 憎
い! 怒りのツボを押さえた演出がてめえの持ち味か!」
「えー。だってこれ面白いし、すっごく分かりやすいんだよ。片山まさゆきっ
て麻雀漫画で有名なんだけど、未来人のセワシくんは知らないよね」
「片山まさゆきぐれー知ってるよ。ノーマーク爆牌党の作者だろ? 22世紀で
もリメイクされて連載中だよ」
「へえ。誰が描いてるの?」
「片ちん本人に決まってんだろ」
ビックリである。
「ずいぶん長生きしてんだねぇ。あの人の漫画って面白いんだけど、絵が下手
なんだよな。それも魅力の一つだけど。おもへたってやつ?」
「糸井重里みたいなこと言ってんじゃねーよ。それよりのび太、お前って俺が
説明するときは、決まって反骨精神を発揮するよな。何で?」
「いやあ。セワシくん、どうもそういうキャラで固まってきたみたいだから。
これでも意外と気ぃ使う方なんだよ」
「その気づかいを、ほんのかけらでいいから俺にも回してくれよ。ドラミ、説
明の続きは任せた。俺は寝る。セワシ様のご就寝だオラー!」
ドラえもんのポケットからキャンピングカプセルを引っ張り出すと、部屋の
床に突き刺した。巨大化して屋根を突き破った球形のワンルームに、一升瓶を
持って閉じこもってしまった。
「セワシさんも、ああなるとテコでも動かないから。放っておきましょ。それ
じゃのび太さん、あたしが説明を引き継ぐわよ」
「待ってました! 正直ヤローのだみ声にはウンザリだったんだよね。さあ、
僕にその美しい調べを聴かせておくれ!」
128,000点のことは綺麗に水に流した。おめでたいぐらいに寛容なのび太で
ある。
続く
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