インド人は未来のインド人だった。タイムマシンに乗って、未来のインドに
帰っていった。
「山も積んだ、起家も決まった。いよいよゲーム開始だよ」
「よっしゃ! とうとう俺の時代がやって来たか!」
のび太時代の幕開けに、のび太は頬を叩いて気合を入れた。
「まずは親がサイコロを振る。セワシくん、どうぞ」
セワシが二つのサイコロを振る。とで、合計8。のび太の山が二つ
に割られた。
「親から反時計回りに数えて八番目の人間の山を、その山を積んだ人間から見
て、右端から八枚目で二つに分ける」
「八枚の列と、九枚の列ができたね。八枚の列の、左から三番目の上段の牌を
表に返す。ちなみにサイコロの目が12だったら12番目の人の山を12と5に、
とで2だったら、二番目の人の山を2と15に分ける。この場合、三番目の上
段の牌が存在しないので、そのまた右隣の山の左端の牌をひっくり返すんだよ」
業界注目の指詰めハンドで、ドラえもんが器用に牌をひっくり返す。
縦棒六本。六索(ローソウ)である。
「この表示牌の次の牌がドラになる。だからドラは(チーソウ)。ドラっ
て言っても僕のことじゃないよ、エヘヘ」
「いいから続けなさいよ」
ドラミの突っ込みに、一瞬場が静まり返る。他人のクソギャグには心底冷た
いドラミである。
「ド、ドラっていうのは、持っているだけで点数がアップする夢のようなボー
ナス牌なんだ。と言っても、ドラを持ってるだけじゃアガれないからね。キチ
ンと役を作ること」
親のセワシが、九列の山に手を伸ばす。右端から四枚を取って自分の目の前
に置いた。
「親のセワシ君から牌を取っていく。反時計回りに順番で四枚ずつ取っていっ
て、これを三回繰り返す。今、のび太くんの目の前には、12枚の牌があるよね?
ここまできたら、次は親が牌を二枚取る。今まで取り崩してきた山の続きから
その山を積んだ人間から見て右端の上段の牌と、一つ置いて三番目の上段の牌。
子の三人は、右端下段の牌、上段の牌、下段の牌を一枚ずつ取る」
親 南家 西家
北家
「合計、親が14枚で子が13枚。これを配牌(ハイパイ)っていうんだ」
のび太が腕組みしてうなっている。ストレスで胃をやられたのかと思ったが、
どうもそうではないらしい。
「あのさ、麻雀ってのは基本的に、反時計回りに進めていくんだよね。でも、
山の右端から牌を取っていくってことは、取る順番は反時計回りでも、山その
ものは時計回りになるよね。なんで?」
「のび太くん、どうしてモンキーパンチはモンキーパンチって名前なのか知っ
てる?」
「いや、知らない」
「だろ? 知らなくたって困らないだろ? バカはバカらしく、黙って麻雀打
ちゃいいんだよ」
「……分かった。でも、ここまでずいぶん時間かかっちゃったね」
「バカに説明すっと時間がかかるんだよ」
何故かドラえもんの口調が厳しい。僕、なんかしたっけか?ドラえもんが寝
てる間に、ネズミの死骸を口に放り込んだのがバレたのか?恐怖と不安におの
のくのび太である。
セワシが説明を引き継ぐ。
「残った山から一枚取って、手牌の中から一枚捨てる。この作業を繰り返して
役を作っていく。いらない牌は容赦なく切り捨てられる。俺だって一生懸命生
きてるのに、それを……」
「セワシくん、身に覚えがあるの?」
「いや、何でもない。それより、まだのび太は初心者なんだし、のび太の手牌
はぜんぶ表にして、それを俺たちが見ながら指導してやるってのはどうだろう」
のび太にとっては、願ったりかなったりである。この三人のことだ、こっち
が黙っていたら指導そっちのけのガチンコ勝負をおっ始めるに決まっている。
「そうしてもらえると助かるな。お金を賭けるのはまだちょっと怖いし……」
「何言ってんだガキ。金は賭けるに決まってんだろ」
「のび太さん、小学生だからって許されることと許されないことがあるのよ。
甘えは即、死につながるわよ」
「多分必要になるだろうから、はい、これ持っててね」
ドラえもんが、借用書の束をのび太に手渡す。糸の切れたマリオネットみた
いな手つきで、のび太は借用書を受け取った。のび太時代の終焉は近い。
ゲームスタート。
続く
戻る
TOPへ