四つの山が出来上がった。山積みのワクワク感は、全自動卓では決して味わ
えない。科学技術の進歩のみを追い求めた果ての手積み文化の衰退は、人類が
犯した大きな過ちの一つと言えよう。
「よし、準備完了だ。次は仮東が二つのサイコロを……」
「あのさ」
「ん、どうしたのび太?」
「僕、勉強とか苦労とか、大っ嫌いなんだよね。才能にあぐらをかいて一生を
ぬくぬく暮らす人生プランに、水を差さないでくれる? 自分にどんな才能が
あるかはまだ分からないけど、きっとなんかの才能はあるよ。いや、絶対ある。
これ確実。大体、麻雀を覚えたところで総理大臣になれる訳でもないし、だっ
たら始めから総理大臣ライトとか出してくれよって感じ。早い話、飽きちゃっ
たんだよね。もうやめようよ、こんな関係」
 あからさまなギブアップ宣言に、さすがのセワシもがっくりきた。焼けた畳
に膝から崩れ落ち、涙の染みを床に広げる。
「俺にも……こんなゲロカスの血が……流れているのか……」
「大丈夫よ、セワシさん。食べられる生ゴミだってそこらに捨てられてるご時
世だし、ゲロカスだって生きてはいけるわよ。元気出して」
 本気で励ますつもりで言っているのだから恐ろしい。ドラミのナイフのよう
な舌鋒にますます頭を垂れるセワシである。論争を制して精神的優位に立った
のび太が、セワシにケツを向けて寝転んで爆睡モードに突入した。
 腕組みをして成り行きを見守っていたドラえもんが、笑顔でのび太に語りか
けた。
「要するに、楽して麻雀を覚えたいんだよね?そんな君にとっておきの道具が
あるよ」
「なんだよあるんじゃん! もったいぶらずに最初から出してりゃセワシも泣
かずにすんだのによ。とっとと出しやがれ、このメガネルンバ!」
「メガネかけてないしルンバ踊ってないし。まぁいいや。はい!」



ドラえもんがポケットから取り出したのは、真っ黒な般若の面だった。両眼に
埋め込まれたルビーが血のような光芒を放っている。
「レインボーファンシーマスク〜」
「すっげえ自覚のない名前だね、それ。で、どう使うの?」
「顔につけるだけ。それだけで、のび太くんも一流プロの……」
 ドラえもんの手からマスクが消えた。マスクはすでに、のび太の顔面に装着
されていた。疾風迅雷の早業である。
 のび太の頭に、麻雀のすべてが流れ込んでくる。古今東西の名勝負、ルール
百般、未来のツモ牌、スーパーリアルマージャンの脱衣アニメ……。
「おお……私は今、麻雀の神となった……」
「あ、言い忘れたけど」
「苦しゅうない、申してみよ」
「そのマスク、独裁スイッチの姉妹品でさ。つけた人間を別世界にとばしちゃ
うんだよね。いってらっしゃい」
 直後。
 プシュン。僅かなノイズの尾を引いて、のび太の姿が消えた。残されたマス
クが床に落ちて、二つに割れた。


続く
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