卓を囲めば心は一つ。腹の中では何を考えているか分からない四人が嬉々と
して牌をかきまわす姿は、分解寸前のロックバンドを彷彿とさせる。
「ところでのび太くん、麻雀牌は全部で何枚か知ってるかな?」
「知ってたって教えてやらねー」
 ドラえもんの手に、独裁スイッチが握られた。
「もう一回しか聞かないから、心して答えろ。麻雀牌は全部で何枚か知ってん
のか? あ?」
「うるせーよ! 独裁スイッチって、どうせしばらくたてば元の世界に帰って
これるんだろ?あんまりウダウダ言ってると必殺の鼻クソボ」
 プシュン。僅かなノイズの尾を引いて、のび太の姿が消えた。


「さ、のび太くんが戻ってくるまで、みんなで昼メシでも食べようか」
 ドラえもんの提案に、ドラミもセワシも諸手をあげて賛成した。ドラミが斧
で本棚や押入れのフスマを叩き壊して、セワシが残骸を部屋の中央に集めて火
をおこした。ドラえもんが冷蔵庫から持ってきた牛肉の塊を焙って、キンキン
に冷えたビールをグラスに注いだ。
「カンパーイ!」


 一時間後、のび太が帰ってきた。顔は真っ青、足の震えが止まらない。
「おかえりなさい。のび太くん、肉が少し残ってるんだけど、食うかい?」
「ど、独裁スイッチって、あんなところに飛ばされるんだ」
「うん。ビックリした? 肉はどうする?」
「この歳で、一児のパパになるところだった……」
「これに懲りたら、人の質問には素直に答えるようにね。のび太くん。いらな
いんだったら、肉は僕が食べちゃうよ?」
「はい。もうなめた口は叩きません。麻雀牌の枚数は知りません。肉はドラえ
もんが食べちゃって下さい」
 大きく頷いたドラえもんがポケットから雀卓を取り出し、黒コゲになった部
屋の中央にデンと据える。麻雀教室の再開だ。ドラミが説明を始めた。
「麻雀牌は、四種類に分けられるの。まずは字の書いてある牌」



「左から、トン・ナン・シャー・ペー・ハク・ハツ・チュン。何も字の書いて
ない牌が、白(ハク)ね。この七種類の牌を字牌(じはい・ツーパイ)ってい
うの。いい?」
「へぇ」
「次に、一萬とか伍萬とか書いてある牌」



「これは萬子(マンズ)。丸がいっぱい書いてある牌もあるわよね?」



「これは筒子(ピンズ)。最後に、緑と赤の縦棒の牌」



「これは索子(ソウズ)。鳥の絵が書いてある牌が一、つまり一索(イーソウ)
ね。麻雀牌はこの字牌、萬子、筒子、索子の四種類で構成されているの。のび
太さん、ここまでは分かった?」
「へぇ」
「字牌は、七種類の牌が四枚ずつで28枚。萬子、筒子、索子はそれぞれ一から
九までの牌が四枚ずつで、36枚。全部合わせると……何枚?」
「へぇ」
「大正解! 全部で136枚。この136枚を取ったり捨てたりして役を作っていく
のが、麻雀の基本原則なの。他にも春夏秋冬とか赤い色の牌とかあったりする
けど、今は無視していいからね」
「へぇ」
 のび太は理解できていない。ドラミは自分さえ良ければそれでいい。まった
く心の通い合わない二人のやりとりである。ドラえもんがダメ元でおさらいを
試みる。
「のび太くん、麻雀牌は全部で何枚?」
「136枚」
 ん!?
「じゃあ、その内訳は?」
「字牌が七種28枚、萬子、筒子、索子が各九種36枚」
 合ってる! どうしたんだのび太、死期が近いのか? のび太の身に、一体
何が!?


続く
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