「ドラえもーん!」
 野比家の金庫をピッキング中のドラえもんに、のび太が泣きついた。
 やれやれ、またか。テストで0点とっただのジャイアンに殴られただのトラ
ブルのない日は一日としてない。進歩のなさもここまでくると一つの才能だ。
「なんだいのび太くん、またジャイアンにいじめられたのかい?」
「僕、しずかちゃんにレイプされちゃったよー!」
「そりゃまた大事件だな、おい」
 どうやら、いつもの小ネタとは事情もシリアス度も違うようである。のび太
の話によると、こうだ。


 ジャイアンの家に遊びに行ったら、母親が出てきて留守だと言った。帰ろう
とするのび太を母親が呼びとめ、一枚の紙切れを手渡した。紙切れにはこの辺
りの簡単な地図と共に、のび太の誕生日パーティーをやるからさっさと来い、
というメッセージが添えられていた。
 地図に従って、パーティー会場のビルに到着した。ビルは繁華街の裏通りに
あった。薄暗い通路を通って、奥まった一室のドアを開けた。
 中に入ると、ジャイアン、スネ夫、しずかの三人が笑顔で出迎えてくれた。
緑色のテーブルを囲んで座っている。お祝いの料理やプレゼントはどこにも見
えない。促されるままに、のび太は空いている席に腰を下ろした。誕生日パー
ティーのメインイベント、地獄の麻雀大会の始まりだ。
 ルールもろくに知らないのび太に勝ち目はない。当然、大負けに負けて有り
金全てを巻き上げられた。三人は勝ち分を山分けして、やおら立ち上がった。
「おお、のび太!」
 ジャイアンが叫んだ。
「ハッピー!」
 スネ夫が続いた。
「バースデー!」
 しずかがのび太の衣服をひん剥いた。丸裸になったのび太の股間に何度も膝
を叩き込むしずかの後ろで、ジャイアンとスネ夫が歌を歌い始めた。のび太に
捧げる『ハッピーバースデー』だ。
 のび太も歌った。のび太に対するしずかの陵辱は果てなく続き、苦痛はいつ
しか快感へと変わっていくのであった……!


「という訳なんだよね」
 のび太は面倒くさそうに話を終えた。ゲームボーイアドバンスに夢中で説明
どころではないらしい。
「最後はヒーヒーよがってんじゃねーか」
「どーだっていいんだよそんなの! 僕のカイザーロードに立ちふさがる敵は、
裁きの雷に打たれて死ななきゃなんないんだYO!」
 カイザーロードときた。何がYOだ。そういう御託は寝小便なおしてからにし
ろよ。ギラつく殺意を抑えつつ、ドラえもんはのび太に尋ねた。
「のび太くん、麻雀のルールはどれぐらい知ってるの? 平和とかタンヤオと
か知ってる?」
「ピンフ? 何それ? タンヤオ? 何それ?」
「だろうと思った。いいかい、ピンフってのは、麻雀牌を四つの順子と……」
「いや、お前に麻雀牌は10年早いって言われて、僕だけ豚の角煮で打ってた」
「なるほど。それはピンフもクソもないね。じゃあ、迷彩って分かる? スジ
は?」
「メイサイ? 何それ? スジ? 角煮の?」
「よし分かった! のび太くん、まずは麻雀の基礎からみっちり叩き込んであ
げよう!」
「マージャン? 何それ?」
「ぶっ殺すぞクソガキ」


 のび太としては、秘密道具で手早くチャチャッと恨みを晴らすつもりであっ
たらしい。しかし、見かけはかわいいが実は腹黒のしずかがあまり好きではな
いドラえもんは、本件に直接介入する気はない。大体がして、麻雀で受けた屈
辱は麻雀で晴らすのが筋というものだ。
 さっそくメンツを集めよう。幸い今日は日曜日、無趣味で甲斐性なしのパパ
は、どうせ居間でゴロゴロしているに違いない。
 ふすまを開けると、案の定パパの姿が。少年ジャンプに食い入ってボロボロ
涙を流している。何のマンガ読んでんだ一体。
「パパさん、のび太くんに麻雀を教えたいんだけど、メンツが足りなくて……」
「マージャン? 何それ?」
「お前もかよ」
 もちろんママも知らなかった。仕方がないので、未来からセワシとドラミを
呼び出して、いたいけな小学生を麻雀でボロクソに毟ろうという事になった。
 まずは基本的なルールの説明だ。


続く


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