
????年??号
龍くん、春成と相次いで敗れて、中国連合軍は崖っぷちに立たされた。次の
烈海王が負ければ、その時点で対抗戦の敗北が確定する。烈の実力はよく分か
っている郭海皇ではあるが、寂海王の底が見えないだけに不安で不安でしょう
がない。
「烈くん、寂海王に勝てるか?」
「分かりません」
「なんでよ」
「空拳道なる流派に疎い上に、昨夜のギョウザでお腹がゴロゴロいっておりま
す故」
言い訳モードに入った烈をじっと見つめて、郭は大きく膝を叩いた。
「よし! 取材じゃ!」
「弱点?」
日米軍の控え室で、寂は飲みかけのコーヒーをテーブルに置いた。郭と烈は
受け皿の日本酒に口をつけながら厳かに頷いた。
「左様。無敵の寂殿にも、一つくらいは弱点があると思いましてな」
「うーん。弱点かどうかは分かりませんが、私はヘビが苦手でしてね」
「ヘビか!」
控え室を飛び出して裏山へ急行した。スコップでメチャクチャに土を掘り返
したが、ヘビは一匹も捕まらなかった。
「老師! ヘビはおろかツチノコもいません!」
「分かった。ちょっと待っとれ」
郭は携帯電話で誰かに連絡をとった。しばらくすると、春成が大荷物をぶら
下げてやってきた。
「あんだよオヤジ。飛行機に乗り損なったじゃねーか」
「春成お前、こないだの飲み会の余興で蛇拳をやったな」
春成のイチャモンには知らん顔をして、郭は早口でまくしたてた。
「ああ、やったっけな。でもありゃ拳法というより……」
「烈に教えてやってくれ! 今すぐに! モタモタすんな! 殺すぞ!」
春成の指導で、烈は蛇拳を完璧にマスターした。春成は額の汗をぬぐって腕
時計を見た。
「それじゃ、俺は帰るわ」
「よし、ワシが家まで送ってやろう」
郭が指笛を吹くと、目の前の土が盛り上がって巨大なモグラが顔を出した。
春成と荷物を背に乗せて、また土の中に潜っていった。
「あんな化け物がいる山なのに、ヘビは一匹もいないのか……」
独り言をつぶやく烈に、郭は自信のほどをうかがった。
「どうじゃ、これで寂に勝てそうか?」
「いや、この程度ではまだまだ」
「よし! 取材じゃ!」
「人質?」
お茶請けのようかんを二つに割ったところで、寂は怪訝な顔をした。郭と烈
は天丼のエビの尻尾をしゃぶりながら真面目な顔で頷いた。
「左様。寂殿にとって、人質にとられて一番困るのはどなたですかな?」
「そうですなあ。やはり故郷の母親ですかなぁ」
「ママか!」
日本の青森にやってきた。猛暑続きの今年の夏だが、北国の空には初秋のよ
うな太陽が輝いていた。樹木の匂いのする風に乗って小川のせせらぎが聞こえ
てくる。
「たのもー!」
寂の実家のドアを叩いた。返事はない。一瞬の躊躇もなく、烈はドアを斧で
叩き割った。
「ご母堂ー! 神妙にお縄をー!」
レイプの真っ最中だった。覆面男の下敷きになった寂の母が、さるぐつわを
かまされた顔を郭と烈に向けて、ンーンーとうなって助けを求めた。
大事な人質を傷物にされてたまるか! 郭と烈の怒りが爆発した!
「きえー!」
郭は手刀を振り下ろした。覆面を被ったままの犯人の生首が床に転がった。
「転蓮華ー!」
烈は生首を股にはさんでそこら中を転げ回った。犯人は完全に息絶えた。
「人質?」
寂の母は丁重に礼を述べた後、二人の用件を聞いて困ったような顔をした。
郭と烈は額を床にこすりつけて、喉の奥から声を絞り出した。
「左様! 人助けだと思って、どうか人質になって下されい!」
しばらく目をつぶって思案をしていた寂の母が、決然と眦をつりあげた。
「わかりました。愛する息子のためとあらば、人質にでも何でもなりましょう」
寂ではなくて中国軍のためなのだが、この際そんなことはどうでもいい。気
が変わらない内に専用ヘリに押し込んで、三人で中国にとって返した。
中国軍の控え室で、郭と烈が向き合っている。その目は揺るぎない自信に満
ちている。
「蛇拳も覚えた、人質もとった。烈よ、これならさすがに勝てるじゃろ!」
「もちろんでございますとも、老師!」
「アーユーストロング?」
「アイアム・ザ・ストロンゲスト!」
「よーし! 行ってこい!」
試合開始の銅鑼が鳴った。地味に構える寂に対して、烈はガードも忘れて一
直線に突進した。
「ヘビー!」
むき出しの陰茎にヘビ型のコンドームをかぶせて、寂の太ももをペチペチと
叩いた。二つに割れたゴムの先にスネ毛をくわえて引っ張った。
「人質ー!」
中国軍のベンチを指さしたが、そこには誰もいなかった。寂の母親は日本軍
のベンチに座っていた。そういえば、日本人は中国軍の敷居をまたぐな! と
言って、寂の母親を追い出したような記憶がかすかにある。息子の闘いを見守
る母親の両脇には勇次郎と刃牙がどっしりと控えて、もはや中国軍の付け入る
隙はどこにもなかった。
「ぬん!」
寂は烈の足を払って、倒れた烈の腕をとって一気にひねり上げた。
「痛ーい!」
「ギブ? 烈海王、ギブ?」
「ギブー!」
「ノー!」
郭は頭を抱えてへたり込んだ。策を弄するより修行しろってこった。
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