
2014年28号 第17話
【前回まで】
武蔵はゆっくりと身を起こし、自分の顔をなで回した。そして鏡の前に歩いていって、
自分の顔をじっと見た。
「これは誰だ?」
「ん?」
光成は武蔵に聞かれて、思わず周囲を見回した。誰も何も言わない。
「俺でもないし、俺の知っている人間でもない。これは誰の肉体だ?」
「お前はだーれの墓から骨を持ってきたんじゃ?」
寒子は完全に疑いのまなざしで光成を見ている。光成はあわてて反論した。
「いや確かに武蔵の骨じゃて。墓にも本物と書いてあったしニュースで騒ぎにも……」
光成はそこまで言って、寒子のあまりのババア面に急速に腹が立ってきた。
「貴様の呼んだ武蔵こそ本物の武蔵か?」
「ん?」
「実は武蔵の霊を呼ぶ力なんぞなくて、その辺の百姓に武蔵のマネをさせてるだけじゃな
いのか! さては貴様ホモじゃろ!」
「私に任せて下さい!」
役立たずのホナー博士がしゃしゃり出てきた。ホナー博士はいつの間にかそこにあった
大きな機械に乗り込んだ。
「こんな事もあろうかと、タイムマシンを作っておきました。これで本物の武蔵を連れて
くれば御老公と寒子どののどちらが正しいか分かります!」
光成と寒子は顔を見合わせて、ホナー博士に言った。
「タイムマシンがあるならなんで言わなかったの?」
「ん?」
「タイムマシンで本物の武蔵を連れてくれば、クローンなんて作らなくてよかったんじゃ
ないの? ねえどうなの?」
「クソ共シャラーップ! 行ってきます!」
タイムマシンはプッと消えて、しばらくしてゲロッと戻ってきた。そしてホナー博士と
二人の武士が中から出てきた。
「偽物の武蔵がたくさんいましたが、精査した結果二人に絞りました。どちらかが確実に
本物の武蔵です!」
「じゃあどっちが本物の武蔵なの?」
「ん?」
「だって本物の武蔵が特定できなかったら、クローンの武蔵が本物かどうかも分からない
でしょ? だから特定して」
ホナー博士は虚空に目をさまよわせていたが、やがて二人の武士の方を向いた。
「アナタは本物の武蔵ですか?」
「本物です」
「じゃあアナタは偽物の武蔵ですか?」
「ところがどっこい本物です」
「特定できません御老公!」
ホナー博士は嬉しそうに光成に報告した。クローンの武蔵は股間を揉んでまた寝た。
次号
前号
TOPへ