2014年26号 第15話

【前回まで】

 勇次郎と花山は無人の公園に移動した。ここなら思う存分戦える。
「おりゃー!」
 二人は同時に拳を繰り出し、そして同時に寸止めして同じ方向を見た。
「花山よ、いま大きな何かが目覚めた。もはや貴様と闘っている場合ではない」
「そうですね勇次郎さん。一時休戦してそいつのところに行きましょう」
「寒子ー!」
 光成は研究所の寒子に電話をかけた。光成は末期ガンで明日死ぬので、勇次郎と花山の
喧嘩はどうしても見ておきたかった。
「武蔵は起きたかー!」
「まだじゃ。今度こそあと5分で起きるからもう少し待……」
「一生起こすなー!」
 光成は電話を叩き切って、去りゆく勇次郎と花山を引き留めた。
「大きな何かはまだ寝ておる。お主らの勘違いだから安心して闘え!」
「そうか!」
 勇次郎と花山は喧嘩を再開し、両手を組んで力比べの恰好になった。
「いくぞー!」
 二人ともいかずに手を離し、また同じ方向を見た。
「花山よ、今度こそ大きな何かが目覚めた。俺たちは手を取り合ってそいつを倒すぞ」
「そうですね勇次郎さん。俺たち二人は決して闘わずにそっちに行きましょう」
「寒子ー!」
 光成は寒子に電話をかけた。寒子のあまりの使えなさに怒りが頂点に達している。
「まさか武蔵を起こしたとかー!?」
「あたしは何もしとらんが、武蔵が勝手に起き……」
「抜いとけー!」
 光成は武蔵の魂を抜くよう寒子に命令して電話を切った。そして去りゆく勇次郎と花山
を引き留めた。
「ワシが悪かった! もう大きな何かは封印するからお前ら二人の喧嘩を見せろ!」
「宮本武蔵が復活したらそっちに行くだろ普通」
「じゃあお前らの勝った方が大きな何かと闘えるようにするから、頼むから喧嘩して!」
 勇次郎と花山は少し考えて、同時に光成に言った。
「分かった。喧嘩してやろう」
「寒子ー!」
 光成は寒子に電話をかけた。喜びのあまり武蔵の事がバレバレなのは気がつかない。
「はやく武蔵を起こさんかこの無能ババアー!」
「武蔵が研究員を全員殺して、研究所から逃げた……ガク」
「ご愁傷様ー!」
 光成は電話を切った。勇次郎と花山は電話の内容をすべて聞いていた。
「花山よ、武蔵が逃げたという事は、この喧嘩に勝っても武蔵と闘えないという事だな」
「そうですね勇次郎さん、こんなヘタレと闘ってもつまらんのでもう帰りましょう」
 勇次郎と花山の喧嘩はこうして終わった。光成は末期ガンで明日死ぬ。


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