
2014年25号 第14話
【前回まで】
「これなら5分で目覚めよう」
あれから5年たった。武蔵はまだ目覚めない。
「お前の5分は長いのう!」
光成が忌々しげに寒子に言った。寒子は仏頂面で武蔵の寝顔を見ている。
「あと5分で今度こそ起きるから黙って見てろ」
「わかった。ワシ黙って見てる」
5分たった。何事もなく時は過ぎた。
「また5分ムダに歳を取りましたー!」
光成は日本刀で壁に正の字を刻んだ。5分ごとに1文字刻んでいるので、壁も床も正の
字で埋め尽くされている。
「心配するな。今度の今度こそあと5分で……」
「貴様の今度は聞き飽きた! あと5分で起きるならその証拠を見せろ!」
光成が盛ったメス豚のような声で騒ぐので、寒子は大きなモニターを持ってきた。
「未来の世界が見えるモニターだ。これで5年後の様子を見れば分かる」
「自分で5年とか言っちゃってるじゃねーか」
寒子は光成に深々とお辞儀をして、モニターに5年後の研究所を映した。
「武蔵はいつ目覚めるんじゃー!」
5年後の研究所は、天井にも正の字が刻まれていた。そして刻む場所がもうないので研
究員も正の字だらけだった。
「あと5分だ。モニターに5年後の世界を映すからそれが証拠じゃ」
モニターの中の寒子が、モニターに5年後の研究所を映した。
「まだなの、武蔵はまだなのー!」
「はいはいあと5分で起きるから5年後の世界を映すぞ!」
また5年後の研究所を映した。その中でもまたその中でも、寒子はモニターに5年後の
研究所を映し続けた。常に武蔵は寝たままで、光成はずっと怒り狂っていた。
「ワシらっていつまで生きてんの?」
「光成、あれはなんだ?」
無限に連なるモニターの一番奥に、今までとは違う影が動いた。寒子はモニターを拡大
して影の正体を確かめた。影は武蔵でも寒子でも光成でもなかった。
「これは誰だ?」
影の正体は烈海王だった。何かを喋っているようなので、寒子はボリュームを上げた。
「御老公、目覚めぬ武蔵など放っておいて、とりあえず私のボクシングを……」
「何じゃテメーは」
光成はモニターを蹴倒して真ん中に日本刀を突き刺して油をかけて燃やした。
「天下の海王がボクシングで手こずんなボケ。武蔵に文句垂れるヒマがあったら乳首でも
いじって寝てろカス」
光成は燃えるモニターを何度も踏みつけながら呪いの言葉を吐いた。炎の中に2つの乳
首が揺らめいて、薄いピンクの光を発して哀しげに消えた。
「今の光は……」
その時、武蔵の目が開いた。
次号
前号
TOPへ