2005年31号 第257話

【前回まで】
ジャックに敗れたアライJr.は、今度は渋川剛気にも圧倒的に叩きのめされてしまった…!!

 ミスターがファミレスに帰ってきた。さっきと同じ席について、飲みかけの
コーヒーカップを手に取った。折れた指に激痛が走って、思わず顔をしかめた。
「どうだ、本気のミスター渋川は強かっただろう」
 向かいに座っていた烈海王が言った。ミスターは苦笑いをして、すっかりぬ
るくなったコーヒーに口をつけた。烈はうまそうにラーメンをすすっている。
「貴様は誰だー!」
 ミスターは烈の胸ぐらをつかんで引きずり寄せた。烈はラーメンの麺を口か
ら垂らして、ミスターの目をじっと見た。
「もう忘れたのか。中国でキミ達と闘った烈海王だ」
 そういえば見覚えのある顔だった。お互い特に話すこともないので黙ってい
たら、店員が大きな壷を持ってきてミスターの前に置いた。烈が口を開いた。
「私のおごりだ。飲め」
 壷の中身は砂糖水だった。ミスターは壷を両手で持って、砂糖水を飲み干し
た。指の痛みが和らいだ気がして、少し落ち着いた。落ち着いたら思い出した。
「梢江サンをどこへやったー!」
 壷をひっくり返して烈の頭にかぶせた。烈はラーメンのスープを飲もうとし
たが壷が邪魔で、口のあたりに何度も丼をぶつけている。
「うっとおしい!」
 ミスターの必殺パンチで壷は割れた。烈はめでたくラーメンをたいらげて、
そして衝撃の事実をミスターに告げた。
「ミス梢江は、ミスター独歩にさらわれた」
「梢江サーン!」
 ミスターは血相変えてファミレスを飛び出した。烈もミスターを追って店を
出た。
「私が道案内してやろう! ついてこい!」
 烈はミスターを従えて爆走した。途中でコンビニに立ち寄ってインスタント
ラーメンを買って、商店街を一周して元のファミレスに戻ってきた。


「戻ってきちゃいけませーん!」
 ミスターはファミレスの床を転げ回った。烈はインスタントラーメンを丼に
移してうまそうに食べている。
「落ち着け。焦ってもミス梢江は助け出せんぞ」
 烈が指を鳴らすと、店員が砂糖水の壷を持ってきた。ミスターは壷をひった
くって一気に飲んだ。砂糖水は甘くて冷たくて、これですっかり落ち着いた。
「落ち着かんわ!」
 壷をひっくり返して店員の頭にかぶせた。視界をふさがれた店員はあさって
の方向に歩いて、窓ガラスを突き破ってどこかへ行ってしまった。
「早く梢江サンのところに案内しろっつんだよ」
 ミスターは烈の頭をつかんで激しくゆさぶった。烈はラーメンを完食して、
勢いよく立ち上がった。
「よし! 水路で行くぞ!」
 ファミレスのそばのドブ川にはエンジン付きのイカダが浮かんでいた。烈と
ミスターを乗せたイカダは水しぶきを跳ね上げて爆走して、すぐに街外れの土
手が見えてきた。土手の上にハゲ頭の男と若い女性が立っている。言うまでも
なく愚地独歩と梢江だ。
「ミスターさーん! 助けてー!」
「梢江サーン!」
 イカダはまったく速度を緩めず、独歩と梢江の前を音速で通過して海に出た。


「止まれやー!」
 ミスターはイカダの上で悶絶した。烈は非常食のラーメンをすすっている。
「大丈夫だ。砂糖水を飲んで元気を出せ」
 烈は壷に海水をくんでミスターに渡した。ミスターは砂糖水を飲んで落ち着
いた。
「これは塩水だー!」
 ミスターの怒りは収まらない。イカダは海岸線を一周して元のファミレスに
戻ってきた。烈はミスターに本物の砂糖水をおごってやった。
「どうだ、これは砂糖水だろう」
「ああ、砂糖水だ」
 ミスターは心の底から落ち着いた。


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