2005年30号 第256話

【前回まで】
ジャック・ハンマーに敗れ、ボロボロのJr.の前に再び渋川剛気が!! アレはゲームだったと言い放つ渋川に対しJr.が仕掛け、“決闘”が開始まった…ッッ!!

 ミスターが渋川剛気にこねくり回されている同時刻、ミスターの父親のマホ
メド・アライはアメリカの自宅でインタビューを受けていた。
「チャンプチャンプ、ボクシングってホントは八百長なんでしょ。恥ずかしが
らないで言っちゃいなよ」
「わははははは」
 日本人の記者に褒めちぎられて、アライは体を小刻みに震わせて笑っている。
ふいにその笑いが止まった。
「む!」
 体の震えも止まっている。アライは立ち上がって窓のカーテンを開けた。近
所のばあさんが勝手に庭に侵入してひなたぼっこをしていたが、アライの視線
はその遥か先を見ていた。
「息子のピンチだー!」
 窓ガラスを蹴やぶって庭に降りた。マキビシをまいて逃げるばあさんには目
もくれず、空に向かって全身を激しく震わせた。高速の振動が生み出す超音波
は初夏の湿った大気を切り裂いて、海の向こうの日本まで届いた。


 虫の息だったミスターが超音波を受信した。ミスターは完全に体力を回復し
て、渋川のとどめの一撃をかわしてアゴへパンチを叩き込んだ。渋川は倒れた。


 アライは額の汗をぬぐって応接室に戻ってきた。ミスターを助けて腹が減っ
たので、記者と二人で高級レストランに出かけて昼食をとった。
「チャンプチャンプ、いい風俗知ってたら連れてって下さいよ」
「わははははは」
 熱いボクシング議論を交わしながら、アライと記者は特上のカツ丼を頬ばっ
ている。アライの震える箸が、カツをつかんだまま止まった。
「息子が危なーい!」
 隣の客に口中の飯粒をぶちまけた。アライは外に飛び出して、さっきよりも
大きく全身を震わせた。


 ミスターは愚地独歩に負けそうだった。しかしアライの超音波で息を吹き返
して、アゴへのパンチで逆に独歩を倒した。


 アライは肩で息をして片膝をついた。明らかに疲れている。記者はアライの
金で勘定をすませて、アライを引きずって家に帰ってインタビューを再開した。
「なんか顔色が悪いですよチャンプ。もうすぐ死んじゃうんですか?」
「息子よー!」
 ミスターはジャック・ハンマーにボコられていた。アライの超音波で形成逆
転して、アゴへのパンチでジャックに勝った。
「チャンプの息子さんって、ボクシングに夢中でまだ無職なんですよね。プル
プル震えてる場合じゃないっすよ」
「マイサーン!」
 ミスターは範馬刃牙に全然かなわなかった。小便を漏らして泣いていたらア
ライの超音波が飛んできて完全復活して、バカの一つ覚えのアゴパンで刃牙を
葬った。
「いいなー、チャンプの息子。一生遊んで暮らせるんだろうなあ。ボクもチャ
ンプの息子にして下さいよ」
 ミスターに力をやり過ぎて、アライは立っているのもやっとなほどに衰弱し
た。その頃ミスターは範馬勇次郎に八つ裂きにされていた。
「アスホール!」
 アライは最後の力をふりしぼって、最大級の超音波をミスターに飛ばした。
それで精も根も尽き果てた。
「ごっぱあ!」
 口から大量の血を吐いて、アライは倒れた。記者はアライの手を握りしめて、
マイクを口元に近づけた。
「チャンプ、最後に言い残すことは?」
「いくら……負ければ……気がすむんじゃ……」
「父さーん!」
 記者はアライの体にすがりついて泣いた。遠のく意識の片隅で、ああ遺産は
全部コイツにくれてやろうとアライは思った。
 ミスターがアライをぶっ壊した。


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