
2005年11号 第239話
【前回まで】
勇次郎のとどめの一撃が放たれた瞬間、老衰により絶命していた郭。だが意識を取り戻し、「武術の勝ち」を宣言した…!!
死んだはずの郭海皇が生き返った。春成や範海王といった中国軍のメンバー
は揃ってびっくり仰天し、特に烈海王は子供を流産しそうなぐらいに驚いた。
日頃から郭のことをなめきっていただけに、郭の凄さを見せつけられたこの感
動をどうしても誰かに伝えたくて、それでまずは勇次郎にチクリに行った。
「勇次郎殿、郭老師は生きておりましたぞ!」
「なんだとー!」
勇次郎は怒った。たまたま読んでいた電話帳を真っ二つに引き裂いて、まん
まと一杯食わされた鬱憤を晴らすため闘技場にすっ飛んでいった。
「郭ー! 許さーん!」
闘技場では郭の葬儀がしめやかに行われていた。周囲の壁には白黒の鯨幕が
はりめぐらされ、大勢の弔問客が涙にくれて肩をふるわせている。
勇次郎は棺桶のフタをこじ開けてみた。中には郭海皇の遺体が間違いなく横
たわっている。くすぐってみたが反応はない。ラーメンの匂いをかがせてもよ
だれを流さない。ナイフを額に突き刺してもウンともスンとも言わなかった。
「やっぱり死んでんじゃねーか」
「ごめんちゃい」
素直に謝る烈に背を向けて、勇次郎は控え室に戻った。烈は闘技場に残って
釈然としない顔つきで葬儀の様子を観察して、そして弔問客の正体が巨大なナ
メクジであることに気がついた。
「おのれ!」
烈が手近の壁を力一杯叩くと、天井から大量の塩が降ってきた。弔問客はみ
るみる内に溶けてしまい、残ったのは郭の遺体と木魚を一心不乱に叩き続ける
坊主のみとなった。郭の遺体は郭に似せた人形で、坊主は郭本人だった。ニセ
の葬儀に騙されたことを知って、烈はさっそく勇次郎にチクリに行った。
「勇次郎さん! 郭の野郎、生きてやがりましたぜ!」
「マジかー!」
勇次郎は猛烈に怒った。たまたま膨らましていたコンドームを一気に破裂さ
せて、再び闘技場に怒鳴り込んだ。
「郭ー! こんにゃろー!」
郭は今度は逃げも隠れもしなかった。衣服を脱いで全裸になって、両手の指
で印を結んで何やら呪文を唱えた。
「消力の術ー!」
声と同時に郭の姿が消えた。長年の修行で身につけた究極の護身技である。
「どうじゃ、ワシがどこにおるかわかるまい!」
余裕の郭は笑いながら熱い茶をすすった。郭の姿は消えているので、湯呑み
茶碗が宙に浮いているように見える。
「そこだー!」
勇次郎は茶碗の辺りをメチャクチャにぶん殴った。すべてのパンチが郭に命
中した。
「ぶばー!」
消力の術が解けて、郭は陰嚢を翻して宙に舞った。血しぶきをまき散らして
床に落ちた郭にとどめを刺そうとしたその時、勇次郎の携帯電話が鳴った。
「もしもし」
「ふぉふぉふぉふぉふぉ」
それはまぎれもなく郭の声だった。ということは、目の前のこの郭は……。
「貴様、郭のニセ者だな!」
勇次郎は郭の髪の毛を掴んで顔の皮を乱暴にめくりあげた。郭の顔の下から
出てきたのは、不敵な笑みを浮かべた烈の顔だった。ということは……。
「貴様は誰だー!」
勇次郎は側に立っていた烈の顔の皮をめくった。烈の顔の下は愚地独歩の顔
だった。ということは……。
「貴様は誰だー!」
ニセ独歩はこの場にいないので、代わりに刃牙の顔の皮をめくった。刃牙の
顔の下は真っ赤な筋繊維だった。
「ぐふっ」
くぐもった呻き声を漏らして刃牙は気絶した。刃牙は本物の刃牙だった。何
としても憎き郭の居場所を突き止めて、刃牙の仇を討たねばならない。
「郭はどこだー!」
勇次郎は客席に乗り込んで、観客の顔の皮を片っ端からめくり始めた。悲鳴
と怒号の交錯する闘技場で、刃牙は静かに息を引き取ったという。
次号
前号
TOPへ