
2005年07号 第235話
【前回まで】
闘争において技術は不純物に過ぎないと言い放つ勇次郎に対し、技術以外は不純物であると反撃に出た郭海皇だったが!?
【ウソバレ的・前回まで】
日本の刑務所に服役中のシコルスキーは、中国で大擂台賽が開催中であることを知った。最凶死刑囚のプライドをかけて出場を訴えるシコルスキーに園田警部のゴーサインが出た!!
しばらく呆然としていたシコルスキーだがやがて気を取り直して、まずはド
リアンの監房の扉を開けた。
「ドリアーン!」
ドリアンはいなかった。ドリアンは海王という中国武術界の偉い人でもある
ため、大擂台賽参加のためにすでに中国へ行っていた。
「ドイルー!」
ドイルの監房にも誰もいなかった。崖下の洞穴でビバーク中にオリバに捕縛
されたドイルであったが、毒に冒されてばっちいのでオリバがゴミと一緒に捨
ててしまったらしい。
「ヤ・ナーギ!」
柳龍光の監房の床には、どす黒い色をした右手が転がっていた。柳本人の姿
は見えない。園田によると、消息を絶った柳を捜索中に発見した右手だそうだ。
ためしに鑑定したら柳の毒手と判明したため、柳の独房に放り込んである。毎
日水と肥料をたっぷり与えているので、じきに立派な柳が生えてくるという。
「シコルスキー!」
自分のいた監房も覗いてみた。当然もぬけの空かと思いきや、見知らぬ老夫
婦がちゃぶ台を囲んでご飯を食べていた。いまは民間用の貸し部屋になってい
るらしい。老夫婦は茶碗を持ったまま、シコルスキーを怪訝な目で見つめてい
る。シコルスキーは黙って扉を閉めた。
「スペーック!」
齢九十七歳のスペックは見る影もなく衰弱して、自力で歩くことすらままな
らないでいた。枯木のような細い体を監房の固いベッドに横たえ、顔だけ曲げ
てシコルスキーの方を見ている。半開きの口からヨダレを垂らしながら呻いた。
「………ウ………」
シコルスキーはみなまで聞かずに扉を閉めて、鍵をかけて隙間を溶接で密閉
して扉にお経を書いて封印を施した。そして園田に食ってかかった。
「誰もいねーじゃねーか! どうなってんだ!」
「変なじいさんばあさんとスペックはいたじゃん」
「あんなもんはいた内に入らん! 今すぐ死刑囚を四人連れてこい!」
「そこまで面倒見きれん。ワシャ帰る」
園田はシコルスキーの手から鍵の束をぶん取って、足取りも軽く愛しの我が
家へ帰ってしまった。
「ソノダー! 待てコラー! 死刑囚ー! メシー!」
今は正午をちょっと過ぎたあたりだった。シコルスキーへの食事の支給は園
田の仕事だが、その園田は昼食のことなどケロリと忘れていた。シコルスキー
が泣いても喚いても、園田は戻ってこなかった。家に帰って風呂に入ってビー
ルを呑んで、あとは寝るだけなのだろう。
シコルスキーは騒ぎ疲れてその場にへたり込んで、力のない目で天井を見上
げた。ところどころにこびりついた天井の染みが、なんだか死刑囚の顔に見え
る。ドリアン、ドイル、柳、スペック、ピロシキ。喉を鳴らしてピロシキに伸
ばしかけた手を、シコルスキーはぎゅっと握りしめた。
「オレは諦めん! こんなことでは諦めんぞ!」
大擂台賽で優勝するまで死ぬ訳にはいかない。シコルスキーの目が再び強く
輝き始めた。勢いよく立ち上がり、老夫婦の部屋にノックもせずに押し入った。
「あー、食った」
シコルスキーが部屋を出たのと同時に、内側から鍵を閉める音がした。老夫
婦が激しく言い争う声が聞こえるが、そんなのシコルスキーには全然関係ない。
ともかくこれで腹は満ちた。あとは大擂台賽出場のためのメンツ集めだ。
「さて、どうしようか」
シコルスキーは壁にもたれかかって、口にくわえた爪楊枝を上下に揺らしな
がら考えた。死刑囚がダメならば、別の筋から人を集めてもいい。真っ先に思
い当たるのは地下闘技場で闘ったジャックとガイアだが、連絡先が分からない。
プロレスラーの猪狩完至とも面識があるが、ちょっと実力的に心許ない。さっ
きの老夫婦に声をかけてもいいが、彼らは自分のことをあまり好きではないよ
うだ。
「うーん」
考えれば考えるほど知り合いが少ない。やはり最凶死刑囚の五人組がベスト
メンバーに違いなかった。シコルスキーはスペックの監房をちらりと見た。
「まあ、いないよりはマシか」
シコルスキーはあまり気乗りのしない顔で、監房の扉に手をかけた。
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