
2005年04+05号
第233話
【前回まで】
消力から生み出される海皇の圧倒的打撃力。しかしその拳を勇次郎が消力で受けたッ!!
郭海皇の投げた車椅子の車輪がまともに顔面に当たったのに、勇次郎は平気
な顔をして立っている。間違いなく消力だった。郭は若き勇次郎の隆々たる肉
体をじっと眺めて、力を捨て去ってまで修練を重ねた己の何十年間がまったく
の空白になるのを感じた。しかし偉大な才能を目の前にして、郭は歓喜に満ち
た声で叫んだ。
「面白い! 勇次郎くんの消力とワシの消力、どちらが上か勝負じゃ!」
「おお!」
「さ、まずはワシの番じゃ。遠慮せずにどーんと打ち込んでこい!」
「おお!」
勇次郎は日本刀で郭の首をぶった斬った。郭は死んだ。
「はー!」
呪文を唱えても郭は生き返らなかった。三人の大会委員は大会を一時中断と
して、郭の首と胴体を本部室に運び込んで色々と蘇生を試みていた。しかし何
をやってもうまくいかず、しまいには郭の首が胴体のどこについていたのかも
よく分からなくなってきた。
「やめたー!」
苛立った委員の一人が郭の首をゴミ箱に叩き込んで、場内アナウンスのマイ
クをつかんでがなり立てた。
「刃牙ー! こーい!」
しばらくして刃牙がやってきた。別の委員が怒った顔をして刃牙に言った。
「お前、これなんとかしろ」
これとはもちろん郭のことである。郭の首はゴミ箱で、胴体には野犬の群れ
がたかって半分以上も食いちぎられている。刃牙は郭の死を予感した。
「どーもならん。無理」
「無理とか言うな。お前の親父のせいで、今えらいことになってんだぞ」
三人目の委員が後ろのモニターを指さした。モニターには闘技場の様子が映
っていて、観客席は水を打ったように静まり返っていた。
「刃物なんか出したらテンション下がるに決まってんだろ。お前、親父の責任
とってもう一回盛り上げてこい」
大会がどうなろうが知ったことではない。父親の尻ぬぐいを不当に押し付け
られて、さすがの刃牙もムッときた。
「だったら親父に直接言えばいいじゃねーか」
「それができれば苦労はしないっつーの」
三人の委員は声を揃えて切り返した。もっともな意見だったので刃牙もどう
にか納得して、ブチブチ文句を言いながら部屋を出ていった。
「うーす」
刃牙が一匹のブタを連れて帰ってきた。委員は怪訝な顔をして刃牙に尋ねた。
「何そのブタ」
「消力が使えるブタだって」
郭の代わりを探していたら、闘技場近くの農家のオッサンがくれたという。
委員は半信半疑でブタの頭を何度か小突いてみた。ブタはわずかにひるんだも
のの、あまり痛そうな顔もしなかった。
「あ、ホントだ。消力っぽい」
「このブタを海皇にして、親父と闘わせりゃいいんじゃない?」
刃牙のアイデアに賛成するのもシャクだったが、この際ぜいたくは言ってい
られない。ブタの鼻に朱肉をつけて書類に押して、ブタの海皇が誕生した。
「よーし! 歴史に残る名勝負やってこーい!」
委員はブタ海皇を部屋から追い出した。ブタはロース肉になって戻ってきた。
「ま、ブタだもんなー」
闘う前から結果は見えていた。委員と刃牙はブタ肉を揚げてトンカツにして
食った。んまかった。
「よし、今度はこいつだ」
次に刃牙が連れてきたのは、消力が使えるヒツジだった。
「採用! 悪い勇次郎をやっつけろー!」
委員はヒツジ海皇を勇次郎にけしかけた。ヒツジは綺麗にスライスされて大
皿に載って戻ってきた。
「ま、ヒツジだもんなー」
委員と刃牙はジンギスカン鍋を食ってビールを呑んだ。すごいんまかった。
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