2004年51号 第229話

【前回まで】
挑むのはおまえの方だと言い放つ郭 海皇、範馬勇次郎は郭 海皇に対して渾身の拳をくり出すが…!!

 勇次郎が馬鹿力でぶん殴ったというのに、郭海皇は乳首をむき出して笑って
いる。消力の効験あらたかであるが、消力は郭にしかできない特別な技ではな
い。中国で生まれ育った人間なら誰でも使える基本能力に過ぎないのだ。
「そんな訳ねーだろ。ウソついてんじゃねえよジジイ」
 勇次郎は笑い飛ばしてはみたが、中国人ならもしや、という不安も拭えない。
心中の動揺を悟られまいと、郭の眼鏡を一生懸命磨いている。
「ウソだと思うのなら、そこらの客で試してみい」
 勇次郎はピカピカになった眼鏡を郭に返して客席に歩いていった。最前列で
大いびきをかいている男性客の前で止まった。
「えりゃ!」
 男性客の鼻を中指で弾いた。わっと言って飛び起きるかと思いきや、何の反
応もない。頬っぺたを軽くはたいても足の裏をくすぐっても、男性客が目覚め
る気配はない。勇次郎は男性客をあきらめて、隣の席の女性客が抱いている赤
ん坊に視線を移した。
「うら!」
 赤ん坊に強烈なアッパーカットをお見舞いした。赤ん坊は真上に吹っ飛んで、
天井に激突して女性客の膝の上に落ちてきた。赤ん坊はケタケタと笑っていた。
「そんなアッパー効かないわよ! あんまり消力なめてんじゃないわよ!」
 女性客が青筋立てて唾を飛ばして啖呵を切った。誰でも消力を使えるのは分
かったが、とりあえずは郭の消力を何とかしないといけない。
「刃牙ー!」
 大声で刃牙を呼んだ。オーロラビジョンに刃牙の眠たげな顔が映った。
「消力について、何でもいいから調べて来い!」
「あいよー」
 オーロラビジョンが消えて、しばらくして刃牙が試合場にやってきた。大き
な石板を抱えている。
「ご苦労。戻ってよし」
「あいよー」
 刃牙は石板を置いて帰った。勇次郎は石板に書いてある文字を読んだ。
「消力。全物理ダメージ無効化。ごま油を数滴たらすとさらに美味しい。消力
を無効化する技もあると言われているが、真偽のほどは定かではない」
「刃牙ー!」
 勇次郎はもう一度刃牙を呼んだ。オーロラビジョンに元気いっぱいの刃牙が
映った。
「なんだいオヤジ!」
「消力を消すもん探して来い!」
「わかったよオヤジ!」
 すぐに刃牙がやって来て、勇次郎に一本の小瓶を手渡した。ラベルには「消
力殺しZ」と書いてある。ドリンク剤だ。
「闘技場の売店に売ってたんだよオヤジ!」
 勇次郎は瓶のキャップを空けて一息に飲み干した。なんだか不思議な力がみ
なぎってくるような気がする。
「だっしゃあ!」
 郭の首筋にハイキックを放ってみた。しかし郭にダメージはなかった。
「甘いのう勇次郎。ワシの消力は特別製なんじゃい」
「刃牙ー!」
 勇次郎はオーロラビジョンに向かって絶叫した。刃牙が映って返事をした。
「あいよー」
「このドリンクの、一番高いヤツを買って来い!」
「あいよー」
 オーロラビジョンは消えた。勇次郎と一緒にオーロラビジョンを見ていた刃
牙が、勇次郎に話しかけた。
「オヤジ、今のは誰なんだい!」
「しまった!」
 勇次郎はあわてて刃牙をどこかへ隠そうとしたが遅かった。もう一人の刃牙
が特大の瓶を背中にしょってやって来た。
「あいよー。ん?」
「あ!」
 二人の刃牙が目を合わせた瞬間、二人の体から眩しい光がほとばしった。こ
れは罠か! それとも新たな恋の始まりか!


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