
2004年43号 第222話
【前回まで】
「護身」寂 海王と「魔拳」烈 海王の戦いは烈海王の勝利で幕を下ろした。これで日米軍と中国軍の5対5マッチは日米軍の2勝1敗となったッッ!!
日米軍全勝の夢は潰えた。烈海王に無様に敗れた寂海王を、味方達は決して
許しはしなかった。
刃牙は控え室のドアを開けて、鎖で拘束した寂を乱暴に蹴り入れた。控え室
には勇次郎が立っていて、床に転がった寂を乳首がちぎれそうな程に怒った顔
で睨んでいる。勇次郎の前には大きな穴が開いている。
「罰だ。入れ」
勇次郎は穴を指さして寂に言った。寂が穴を覗くと、深い穴の底には煮えた
ぎったマグマが真っ赤な泡を吹いている。
「イヤです」
寂は即座に拒否をした。何故なら死んでしまうからだ。勇次郎の横でバーボ
ンを呑んでいたオリバが立ち上がって、グラスの氷をつまんでマグマの中に放
り込んだ。
「冷ましてやったから、入れ」
「イヤです」
寂はまたしても難色を示した。何故ならあまり冷めてはいなかったからだ。
そこへミスターが帰ってきた。先ほどミスターと範海王の試合が始まったばか
りなのだが、もう決着がついたらしい。勇次郎はミスターに尋ねた。
「勝ったか」
「負けた!」
ミスターは吐き捨てるように答えて、血に染まったガウンを脱いでマグマの
穴に元気よく飛び込んだ。勇次郎はミスターの最期を見届けて、寂に視線を戻
した。
「お前もミスターを見習って、入れ」
「イヤです」
寂はきっぱりと断った。何故なら人の猿真似をするのが大嫌いだからだ。そ
こへ今度は烈がやってきた。浮かれ顔で日の丸の国旗と星条旗に火をつけよう
としたところで、ただならぬ雰囲気に気づいて小首をかしげた。刃牙が説明し
てやるとようやく事態を理解して、寂に言った。
「先っぽだけでもいいから入っちゃいなさいよ」
「イヤです」
寂は頑として言う事をきかない。何故なら先っぽは寂の一番敏感な部分だか
らだ。業を煮やした勇次郎が烈に耳打ちをして、烈は部屋を出て行った。やが
て戻ってきた烈は大きな箱を抱えていて、箱を開けると春成と龍くんが入って
いた。勇次郎は二人を箱から引きずり出して、寂の隣に並べた。
「三人だったら文句ねーだろ。入れ」
「イヤです」
春成と龍くんは同時に答えた。何故なら勇次郎は敵の大将だからだ。
「イヤです」
寂も勇次郎の作戦には乗らなかった。何故なら寂は頭がいいからだ。
結局、だだっ子が三人に増えただけだった。マグマの熱でサウナのようにな
った控え室に、呼び出しのハゲがやって来た。
「範馬勇次郎選手、出番です」
勇次郎は試合場へ向かった。あっという間に試合に勝って戻ってくると、ミ
スターが新しいローブを羽織って冷たいビールを飲んでいた。勇次郎はボロボ
ロになった郭海皇を床に投げ捨てて、ミスターに言った。
「穴から出てきたのか」
「出てきました」
ミスターは死ななかった。何故なら死にたくなかったからだ。
「もういっぺん入れ」
「イヤです」
ミスターは丁重に辞退した。何故なら穴の中は全然面白くなかったからだ。
勇次郎はミスターをあきらめて、意識の戻った郭に水を向けた。
「入れ」
「イヤです」
郭もとぼけた顔で断った。何故なら早く家に帰って寝たいからだ。試合に負
けた癖して、誰も穴に入ろうとしない。勇次郎は最後の説得を試みた。範海王
を控え室に呼んで、刃牙、オリバ、烈と自分の五人で穴の淵に立った。
「お前らが入らないんなら、俺達が穴に入るぞ」
「イヤです!」
寂達は悲痛な叫びをあげた。何故ならみんなのことが大好きだったからだ。
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