2004年41号 第220話

【前回まで】
完全な状態の烈 海王の猛攻にあい追い詰められていく寂 海王。烈の虚を衝き反撃を試みるが!?

烈海王の視点
 寂海王のハゲ頭がどアップになったと思ったら、目の前が真っ暗になった。
頭突きを食らったのだと分かって、烈は屈辱のあまりケツの穴が張り裂けるほ
ど怒った。人が手加減してやってんのをいいことに調子に乗りくさってこのウ
スラハゲ、と思ってふと勇次郎の方を見ると、勇次郎も烈を見ていた。右腕を
前に突き出して親指を立てている。勇次郎のゴーサインが出たので、寂をぶち
殺すことに決定した。寂に向かって大股で歩き出したが、途中で立ち止まって
観客席を見上げた。

寂海王の視点
 頭突きで一矢報いたはいいものの、その後のことはなーんにも考えてなかっ
た。出来心で烈の肘を治してやったことを、今は死ぬほど後悔している。こん
な可哀想なワシだがもちろん助けてくれるよね、と勇次郎の方を見ると、勇次
郎も寂を見ていた。物凄く怖い顔をして、髪の毛なんか変な格闘マンガみたい
に総立ちになっちゃってる。明らかに助けてくれなそうな感じだったので、寂
はすっかり観念してその場にうずくまった。怖いもの見たさでそっと烈の様子
を窺うと、烈は自分ではなく客席の方を見ている。寂も烈の視線の先に目をや
った。

ある観客の視点
 隣のカップルがイチャついて、全然試合に集中できない。首は何とか試合の
方に向けてはいるが、アーンとかゲヘヘとかいうカップルの声が嫌でも耳に入
ってくる。女に耳掃除をしてもらっている男が自分に向かって屁をこいて、女
が謝りもせずにゲタゲタ笑い出すに及んで、とうとう堪忍袋の緒が切れた。コ
イツらやっちゃってもいいっすよね、と勇次郎の方を見ると、勇次郎も観客を
見ていた。いいっすよ、と言わんばかりに大きく頷いている。観客はやっちゃ
うことに決定した。男の首根っこを捕まえて遠くにぶん投げて、残った女の衣
服をひん剥いて全裸にしてやった。

カップル女の視点
 何が起こったのか、咄嗟には把握できなかった。しばらくぼんやりとして、
自分が全裸になったと分かるととびきり大きな悲鳴を上げて、彼氏の名を叫ん
だ。彼氏はどこにもいなかった。助けを求めて必死に周囲を見回すと、勇次郎
と目が合った。勇次郎は女のすぐ目の前にいた。腕を組んで仁王立ちになって、
女の裸体をまばたき一つせず眺めている。女は身体を手で隠そうとしたが、両
手はバンザイをしたままでどんなに力を込めても動かない。

烈海王と寂海王の視点
 烈と寂は女の両脇に立っていた。女の片腕ずつをがっしりと握り締めて、露
になった女の胸を思慮深い顔で観察している。これは乳首ですかな、と烈が訊
くと、ええそうですなこれは乳首ですな、と寂が答える。左右どちらの乳首が
好みですか、と二人で勇次郎に訊くと、勇次郎は答える代わりに唇の端をゆが
めて渋い笑顔を作ってみせた。烈と寂も同じようにニヤリと笑った。

大擂台賽の戦士達の視点
 すべての海王が客席にやって来た。日米軍の精鋭も駆けつけて、みんなで輪
になって女を取り囲んだ。女を全裸にした観客ももちろん輪の中にいる。女が
泣こうが喚こうが男達は一切取り合わず、全裸の女を真剣なまなざしで見守っ
ていた。髪の毛の先からつま先まで、舐めるように見守っていた。

カップル男の視点
 男の顔は、皺だらけの膝枕に埋もれていた。耳掃除の続きは中国軍ベンチの
郭海皇にやってもらっている。年季の入った綿棒さばきが心地よく、男はいつ
しか眠りに落ちた。

郭海皇の視点
 男の耳をほじくる手を休めて、郭海皇は客席を見上げて勇次郎の背中を見つ
めた。鬼の貌が浮かんだ背中には、天使の翼が生えているように見えた。
「お迎えじゃな」
 郭はそっと目をつぶり、二度とその目が開くことはなかった。


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