2004年40号 第219話

【前回まで】
「完全なる自己防衛」を実現するために烈 海王の右腕を治した寂 海王。完全となった烈の猛攻が始まったッッ!!

 寂海王と烈海王が熾烈な闘いを繰り広げる一方、大擂台賽の運営委員が日本
へ向かった。再三の大会参加要請にも頑として動かず、業を煮やした日本びい
きの委員が直談判に乗り出したその男とは、神心会元館長・愚地独歩であった!


「そんな話は聞いてねーって」
 独歩は苛立った声で言って、胡坐の足を組み直した。せっかくの休日に自宅
に押しかけてきた目の前の中国人を、明らかに迷惑がっている。委員は平気な
顔をして、無理やりとってもらった寿司をがっつきながら主張した。
「そんな筈はないです。招待状を何度も何度も送っているです」
「招待状なんざ一通も届いてないっつーの。夏恵ー!」
 独歩が呼ぶとふすまが開いて、ブリキのガラクタみたいなロボットが客間に
入ってきた。これが夏恵らしい。独歩と目が合うと首をグルグル回転させて、
背中の排気口から勢いよく煙を噴き出した。
「ドッポチャン、アイシテルワ。ドッポチャン、アイシテルワ」
「夏恵、中国からワシに手紙が来ているらしいんだが、お前知っとるか?」
「アホンダラー!」
 夏恵はなぜか激怒して、口から灼熱の火炎を吐いた。熱風に煽られて、夏恵
の口元に張り付いていた焦げた紙片が畳に落ちた。今日の朝刊の切れ端だった。
「招待状、燃やしちゃったですね」
 委員が納得顔でつぶやいた。独歩は夏恵を部屋から追い出して、委員に向き
直った。
「とにかくだ。アンタの話によれば五対五の対抗戦が始まったという事だし、
それならワシの出番はもうないんじゃないのか?」
「そんな事ないです。試合を見れば分かるです」
 委員は部屋のテレビをつけた。独歩はちょっと驚いたように言った。
「ほー。大擂台賽っちゅうのはテレビ中継までされとんのか」
「いや、日本では放送されてないです」
 テレビに映っているのは昼のメロドラマだった。委員はテレビの前に立って、
右足を引いて構えた。
「破ー!」
 強烈な中段蹴りがテレビの横腹を打った。何かが破裂する音がしてテレビの
映像が消えて、しばらくして別の映像が流れ出した。大擂台賽の中継だった。
「こうすると中国の番組が見られるです。もう日本の番組は映らないです」
「絶対弁償してもらうからな、テメー」
「そんな事ないです。試合を見て下さいです」
 画面には顔見知りの烈海王と、日本人らしいハゲのおっさんが映っていた。
ハゲのおっさんは烈の猛攻に耐え切れず、小便を漏らして泣き喚いている。独
歩はハゲのおっさんを指して委員に訊いた。
「誰これ?」
「寂海王っていうです。全然使えないです。弟子も二万人しかいないです」
「二万人?」
 独歩の鼻の穴が僅かにふくらんだ。委員はここぞとばかりに話を続けた。
「だから、百万人も弟子がいてすごく使える独歩さんと寂を交換するです」
「うーん……」
 食指を動かされた様子の独歩であったが、しばらく考えて首を横に振った。
「やっぱりダメだ。こいつの面倒を見なくちゃいけないから」
 独歩が振り向いた先には夏恵がいた。風呂場から外してきた浴槽をアームで
挟んで上下に振っている。浴槽には緑色の液体がなみなみと注いであった。
「ドッポチャン、オチャノンデ。ドッポチャン、オチャノンデ」
 委員は浴槽をひったくって脇にやって、夏恵の正面で腰を落として構えた。
「破ー!」
 夏恵の正中線に拳の連打を叩き込んだ。ブリキのボディに亀裂が走って二つ
に割れた。中から出てきたのは正真正銘、人間の夏恵であった。
「夏恵ー!」
「あなたー!」
 独歩と夏恵は涙を流して抱き合った。愛する妻との邂逅を果たした独歩に、
委員が鼻くそをほじりながら声をかけた。
「奥さんも元に戻ったです。独歩さん、これでも中国に来ないなら殺すです」
「おお行ったるわい! 青二才の烈ごとき、けちょんけちょんにしたるわい!」
 独歩、日米連合軍参入決定!


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