2004年38号 第217話

【前回まで】
握手を求め、そこから不意打ちをし続ける寂 海王!!烈 海王はことごとく反撃し続けるが、逆に寂の術中にはまり右腕を折られてしまう。観客は寂の卑劣な行為に暴動を起こそうとするが、烈がそれを静める。そして、真の闘いが始まろうとしていた!!

 烈海王は寂海王への弟子入りを決意した。始めは指導員にという話だったが、
寂は自分より強い烈がシャクに触ったので待遇を変更した。烈は快く了承した。
 まだ試合の途中だが、そうと決まれば大擂台賽なんぞに用はない。烈と寂は
控え室に戻って帰り支度を済ませて表に出た。
「さあ烈さん。日本に帰ったら、アナタは二万一人目の門下生だ!」
 寂が言った途端、烈は頬っぺたを膨らませてそっぽを向いた。ピッタリ二万
人目でなければ中国に残って嫁探しをする、だそうだ。寂はバッグから写真の
束を取り出して適当に一枚を引き抜いた。中年の日本人男性が映っている。
「えいや!」
 写真を真っ二つに引き裂いて、クシャクシャに丸めてゴミ箱に叩き込んだ。


「ぐわっ!」
 日本の中華料理店で回鍋肉を炒めていた男がひっくり返って息絶えた。男は
寂が破いた写真の男だった。


「たった今、一人破門にした。これで烈さんは晴れて二万人目の門下生だ」
 烈は満足そうに頷いた。寂は烈の手をとって爽やかに笑った。
「よし、これで契約成立だ! 記念に私とダンスを踊ろう!」
「待てーい!」
 祝福のダンスは幻に終わった。二人の前に範海王が立ちはだかった。
「烈どの、そのような男の口車に乗ってはなりません!」
 無表情で尻をかく烈を背中にかばって、寂は範にも誘いをかけた。
「範さん、アナタも私の弟子になりませんか」
「バッカじゃねーの、お前」
 範の返事はにべもない。やはり二万一人目というのがお気に召さないのだろ
う。寂は写真の束からまた一枚引き抜いた。服を着たネズミの写真だった。
「とう!」
 写真にカッターナイフを突き立てた。ネズミの額に大きな裂け目が入った。


「ごっぱあ!」
 日本の遊園地でたくさんの子供に囲まれていたネズミが、おでこから血を噴
いてぶっ倒れて死んだ。ネズミは死んでも笑っていた。


「コイツも破門だ! 二万人目の門下生の座は範さんのものだ!」
「師匠よ!」
 範は涙を流して寂に抱きついた。反対に烈は物凄く怒っている。寂は烈の不
満を察して素早くフォローしてやった。
「大丈夫。烈さんは名誉二万人目の弟子だから、これからもずっと二万人目だ」
 烈も寂に抱きついた。寂は莞爾と笑って烈と寂の肩に両手を回した。
「私の可愛い弟子たちよ、みんなで仲良くスクワットをしようじゃないか!」
「そうはさせん!」
 無駄な筋トレをせずに済んだ。郭海皇がやって来て、寂を睨んで凄みをきか
せた。
「寂海王よ。ここまで中国拳法をコケにして、無事に帰れるとは思うなよ」
「分かりました。ちょっと待って下さい」
 郭も二万人目の弟子にしちゃおうと、寂は写真を束から引き抜いた。
「あれ?」
 写真は勇次郎の写真だった。そう言えば、少し前に勇次郎には内緒でこっそ
り入門手続きをしちゃったような記憶がある。あんまり破門にはしたくない。
「まあいいや。えいっ」
 選びなおすのも面倒なので、寂は写真の両端をつまんで力一杯引っ張った。


「む!」
 日米軍ベンチの勇次郎が背中を丸めて震えだした。心配そうに覗き込む刃牙
に苦悶の目つぶしを食らわせて、胸を反らせて気合いを入れた。
「けー!」


 なぜか写真は破れない。寂は舌打ちして、ライターで写真に火をつけた。


「むむ!」
 勇次郎は顔を真っ赤にして苦しんでいる。刃牙も勇次郎に首を絞められて泡
を吹いている。勇次郎は両腕に力をこめて絶叫した。刃牙の首の骨が折れた。
「だりゃー!」


 写真の火が消えて、代わりに郭が燃え上がった。地獄の業火に包まれてのた
うち回る郭に、寂は尋ねた。
「あのね郭さん。別に二万人目じゃなくてもいーい?」
 二万一人目の弟子に甘んずるか、はたまた死か。郭海皇の選択やいかに!?


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