
2004年35号 第215話
【前回まで】
対戦相手の烈 海王に対し右手を差し出し握手を求める寂 海王。握り返す烈に攻撃を加えようとした寂は反撃される。寂は再び握手を求め、更に握り返す烈を攻撃するがまたも迎撃されてしまう!!
二度目の奇襲も不発に終わった。烈の返し技を喰らって尻餅をついた寂は、
すぐさま起き上がって三度目の握手を求めた。笑っている。烈も笑っている。
「烈さん、ヘイ!」
「ヘイ!」
烈が寂の手を握り返すと、今度は烈がワーと言って卒倒した。自分から転ん
だようにも見える。烈は何事もなかったように立ち上がって、寂に向かって手
を差し出した。
「寂さん、ヘイ!」
寂は握り返さない。ものすごく怖い顔をして、烈の後ろを指さした。烈が後
ろを振り返ると、スタンドの最前列に陣取った男性客がイビキをかいて眠りこ
けていた。
「ヘイヘイヘイ! オヤジ!」
「オレらの試合中に寝てんじゃねーぞ! オヤジ!」
寂と烈は男性客に向かって大股で歩いていった。烈がビンタをお見舞いする
と、男性客はたまらず飛び起きた。
「な、なんだ? 祭か?」
「オヤジ。ヘイ」
狼狽する男性客の目の前に、寂はズンと手を差し出した。訳も分からず握り
返した男性客の頭上に黒い雲がみるみる集まって、特大の雷を落っことした。
「ぎゃー!」
雷は容赦なく男性客を打ち続ける。寂は男性客の苦しそうな顔をのぞきこん
で、申し訳なさそうに言った。
「どう、目が覚めた? ワシらの試合、そんなに退屈だった?」
「すんません! もーバッチリ覚めました!」
「よし! それならよろしい!」
寂が手を離すと黒雲は消えた。さあ試合再開だと二人で中央に戻りかけて、
そこで再びギョッとした。反対側のスタンドで、若い男女がいちゃついている。
女は男にしなだれかかって、持っていた袋からポテトチップを取り出した。
「はい、アーンして」
「アーン」
だらしなく開いた男の大口に、獲れたてのイワシが突き刺さった。間髪入れ
ずに寂と烈が小走りでやってきた。
「ヘイ! そこのカップル、ヘイ!」
「ジャンクフードばっか食ってんじゃねーぞ! ガキ!」
あっけに取られるカップルの前にウンコ座りになった。烈の投げたイワシが、
男の口から飛び出た尻尾をビチビチいわせている。烈は女に話しかけた。
「キミたち、試合なんか全然見てなかったよね?」
「み、見てました!」
「本当? 彼氏にイワシなんか食べさせちゃってるのに?」
「イワシなんか知りません! 本当に見てました!」
「だったら、ヘイ」
寂と烈はそろって手を差し出した。烈は優しく女に微笑みかけた。
「見ていたんだったら、黙ってこの手を握りなさい」
女は烈の手を、男は寂の手を、おそるおそる握り返した。地響きと共に、カ
ップルの足元のコンクリートを突き破って化け物みたいな植物が生えてきた。
それは巨大なウツボカズラだった。
「はい、アーンして!」
烈の合図で、ウツボカズラはカップルにかぶりついた。烈と寂が手を離すと、
カップルを呑みこんで満足そうに地中に戻っていった。
「びえー!」
一部始終を目の当たりにした赤ん坊が、火のついたように泣き出した。寂と
烈は同時に駆け出した。
「ヘイヘイヘーイ! アーユーベイビー?」
「男の闘いに涙は禁物だぞボクちゃん! ヘイ!」
母親から赤ん坊をひったくって、寂と烈は小指を立てて差し出した。赤ん坊
がしゃくりあげながら二人の小指を握ると、赤ん坊の体は真っ白な光に包まれ
た。光は一瞬で消えて、泣き止んだ赤ん坊に烈が尋ねた。
「あなたの名前は?」
「白林寺総師範、劉海王である」
劉海王、完全復活!
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