2004年32号

 春成が負けた。二秒で負けた。観客の誰もが冗談だと思ったが、対抗戦自体
が壮大な冗談のようなものなので、今さら文句を言う人間は一人もなかった。
 いつもの大会スタッフではない女性が数人やって来て、痛快に気を失ってい
る春成の髪の毛をつかんで床をひきずって行った。最前列に座っていた観客の
少年が、あれは郭海皇の親衛隊なんだぜと得意そうに刃牙に教えてやった。刃
牙は生意気なクソガキの頭蓋骨をかち割ったあと、中国軍のベンチに目をやっ
た。郭の姿はどこにもない。春成をどこかに連行して、きつーいお仕置きを加
えるつもりに違いない。
 刃牙の正義の心が燃え上がった。邪悪な郭の魔の手から春成を救い出し、日
本に連れて帰って二人で映画を観たり温泉に行ったりして青春を謳歌させてや
ろうじゃないか!
「親父、親衛隊の後を追うぞ!」
「なんで」
「じゃあ烈さんでいいや」
「よしきた!」
 刃牙と烈は選手用の通路に出た。歴戦の勇士のみが立ち入ることを許された
聖なる空間を、慎重な足取りで進んでいく。どこからか漂う汗の臭いと壁に染
み込んだ血の痕が、獣のようなギラついた殺意を放っているかのようだ。
「ギャー!」
 春成の悲鳴だ。あまりの通路の汚さにすっかりやる気のなくなった刃牙と烈
であったが、ここまで来て手ぶらで帰るのも悔しいので悲鳴の方向にブラブラ
歩き出した。


 中国軍の控え室にやって来た。春成はきっとこの中にいる。すぐにでも飛び
込みたい衝動を抑えて、二人はまず郭をおびき出す作戦をとった。
「オラ郭ー! 出てこーい! テメエの皮余りの人生、今すぐ終わらせてやっ
からよー!」
「海皇だからって調子こいてんじゃねーぞコラ! オレがちょっと本気だせば
二秒で海皇になれるんじゃ! オレの打岩でジジイのお肌もツルツルなんじゃ
い!」
 郭が出てくる気配はない。かくなる上は強行突入しかない。刃牙と烈は目配
せをして、せーのの合図でドアを蹴り破った。
「春成さん、助けにきたぞ!」
 春成は部屋の右手の壁際に立っていた。刃牙と烈をチラリと一瞥して、大し
て興味もなさそうにまた正面を向いた。春成の正面には郭がいた。片手に革の
ムチを持って、たいそうお怒りの様子である。
「ちぇい!」
 郭が革ムチで床を打つと、郭の隣で待機していた水着姿の女がトテトテと春
成に走り寄った。
「いやーん」
 春成の頭をトウモロコシで殴りつけ、ブラを外して春成の頭にかぶせて戻っ
てきた。すぐに新しいブラを装着する。
「ぎゃー!」
 春成はたまらず苦悶の叫びをあげた。反対側の部屋の隅にはオリバに敗れた
龍くんがソファにふんぞり返っていた。バスローブ一枚の若い女が龍くんにし
なだれかかって、テーブルの上のソウメンをすすっている。郭のムチの合図で、
女はソウメンの器の中の氷を口にくわえて龍くんの乳首に押し当てた。
「ぎえー!」
 龍くんはこの世の終わりみたいな声を出した。共に地獄のような残忍卑劣の
お仕置きである。刃牙と烈は床に座り込んで、春成を救出するスキを窺った。
 お仕置きに夢中だった郭が二人に気づいた。しばしの沈黙があって、郭は奥
のドアに向かって手を叩いた。天使の恰好をした二人の女がやって来て、郭の
合図で刃牙と烈のズボンをずり下ろし、股間を星型のスティックで突っついた。
女の頭の上の輪っかがピカリと光った。
「ちょえい!」
「ああーん」
「ぎょえー!」
「といや!」
「むふーん」
「ごばー!」
 郭の姦計に陥った刃牙と烈。絶体絶命!


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