2004年31号 第212話

【前回まで】
己の持ち味である怪力で、オリバは龍に快勝。2戦目は偉大なる父を持つもの同士、刃牙と春成が激突する!!

 全速力で走ってくる春成を、刃牙は構えることもなく悠然と待ち受けている。
春成は刃牙の目の前で立ち止まり、歯をむき出して大きく拳を振りかぶった。
「えいー!」
 渾身の右ストレートが刃牙の顔面にめりこんだ。驚いたのは春成の方だった。
「なんでよけないのー!」
 自分でも当たる訳がないと思っていた大雑把なパンチがクリーンヒットして、
刃牙の鼻から真っ赤な血が噴き出した。しかし刃牙は黙っている。
「シカトかこんにゃろー!」
 今度は刃牙の股ぐらを思い切り蹴り上げた。寺の和尚が鐘をつくような感触
があって、刃牙の睾丸は二つとも潰れた。続けざまに刃牙のみぞおちにヒザを
叩き込んだ。刃牙は口から未消化の芋ようかんを吐き出した。それでも刃牙は
呻き声一つ立てず、冷たい目で春成をじっと見つめている。
「真面目に闘えー!」
 ガードはしないわ反撃もしないわ、試合前に芋ようかんなんか食うわ。全く
やる気を見せない刃牙に、春成は刃牙の耳たぶを引っ張ってどやしつけた。憤
懣やるかたない春成に対して、刃牙は口の端をゆがめて「フン」と笑い飛ばし
たのみである。明らかに春成のことを馬鹿にしている。
「もーいー!」
 春成は刃牙をあきらめた。微動だにしない刃牙をほったらかして、日米軍の
ベンチに向かって走り出した。ミスターの前で立ち止まり、ビッと指をさして
高らかに宣言した。
「お前と闘うー!」
 ミスターは何も答えない。不細工な人形を握りしめて、一心不乱に祈りを捧
げている。純白のガウンが目にまぶしかった。
「痛がれー!」
 春成はミスターのガウンの襟首をつかんで往復ビンタをお見舞いした。みる
みる頬が腫れ上がって血まみれの顔面になったミスターだが、それでも人形に
祈り続ける。孔雀の羽でくすぐってもガウンをはだけて乳首をつまんでも、春
成にたて突こうという素振りはちっともない。ミスターはガウンのポケットか
ら人形の首を取り出して、持っていた人形の首を新しい首とすげ替えて春成に
突きつけた。それまで無表情だった人形の不細工面は、完全に春成を小馬鹿に
した笑い顔に変わっていた。ミスターはここで初めて春成と目を合わせた。ミ
スターは人形と同じ表情で笑っていた。
「お前もダメだー!」
 春成の怒りが爆発した。ミスターと人形の嘲笑から目を背けるようにして、
左側の壁に向かってドタドタ走っていった。
「おりゃー!」
 パンチで壁に大穴を開けた。壁の向こうは選手の控え室になっていて、ドリ
アンが美味しそうにキャンディをなめていた。
「この外人めー!」
 ドリアンは日米軍ではないのだが、もう贅沢は言っていられない。金属バッ
トでドリアンの横面を張り飛ばすと、ドリアンは大事なキャンディを吐き出し
てしまった。埃まみれになったキャンディを見つめるドリアンの目が妖しく輝
き、そしてゆっくりと立ち上がった。
「やんのかー!」
 待ってましたとばかりに両腕を振り回す春成に背中を向けて、ドリアンはド
アの近くの大きな袋を持ち上げて、中身を勢いよくぶちまけた。袋の中身は大
量のキャンディだった。床を転がるキャンディに飛び乗って、ドリアンはキャ
ンディと一緒に部屋の外へ転がっていった。
「逃げたー!」
 廃人のドリアンにも相手にされず、春成はたまらず表の駐車場に駆けていっ
た。車のボンネットの上で昼寝をしていた郭海皇をゆさぶり起こして、泣き出
しそうな声で訴えた。
「なんでみんな闘ってくんないのー!」
 郭は小さく舌打ちして、フロントガラスをノックして再び目を閉じた。運転
席には勇次郎が座っていた。勇次郎はアクセルを目一杯に踏み込んで、郭をボ
ンネットに乗せたまま車を走らせた。春成は実の親父にも見捨てられた。
「待てこのー!」
 追いかけようとした春成の横を、何かが猛スピードでかすめ過ぎた。キャン
ディに乗ったドリアンだ。次号、勇次郎とドリアンの白熱のカーチェイス!


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