
2004年29号 第211話
【前回まで】
中国軍対日米勝ち残り連合軍の5対5対抗戦初戦は、持ち味である怪力にものを言わせ頭突きでオリバが龍を破った。そして2戦目、ついにバキ登場だ!!
目を覚ますと、まず白い天井が見えた。龍くんはベッドの上で半身を起こし
て周囲をゆっくりと見回した。大小の瓶が並んだ棚、机、ベッドのシーツ、壁、
リノリウム張りの床。すべてが白を基調にした無機質なデザインで、薬品の匂
いがプンと鼻をついた。闘技場の救護室だ。
救護室の中には烈海王がいた。ベッドの横の椅子に座って、意識を取り戻し
た龍くんの手を握って泣き出さんばかりに喜んだ。
「目が覚めたか、龍さん! よかった!」
靄のかかったような表情で烈の手を握り返すと、龍くんのこめかみに激痛が
走った。その痛みで、龍くんはすべてを思い出した。そうだ、オリバの頭突き
を喰らって……。
「私は、負けたのか」
「何を言ってるんだ龍さん! アンタは勝ったんだよ!」
慰めてくれるのは嬉しいが、龍くんはオリバの頭突きの感触をはっきりと覚
えている。オリバの勝ちをコールする実況の声も聞いている。
「いや、いいんだ。今回は不覚をとったが、さらに精進を重ねて……」
「テメーが勝ったって言ってんだろ」
烈は龍くんの胸倉をつかみ上げた。テレビが見えるようにベッドから引きず
り出して、ビデオデッキにテープをセットして再生ボタンを押した。
龍くんとオリバの試合がテレビに映った。オリバは龍くんの首を太い腕で押
さえつけて、ゴツい頭突きを何度もかましていた。前歯が飛んで鼻がひしゃげ
て、顔面がクレーターのように陥没した龍くんが床に崩折れて、試合は終わっ
た。勝利の記念にオリバがパンツをずり下げようとしているところで烈はビデ
オを停止して、龍くんに向かって笑いかけた。
「な?」
「明らかに私の負けじゃねーか」
「破ー!」
烈はテレビとデッキをぶち壊した。ビデオテープを真っ二つにへし折って証
拠を隠滅して、龍くんの首筋に、
「この分からず屋ー!」
強烈なチョップを叩き込んだ。再び気絶した龍くんを置いて部屋の外に出た。
試合場に戻ってきた。折りしも第二回戦の真っ最中である。オリバはパンツ
を下ろしかけた格好で、銃で撃たれて死んでいた。
「どけコラ」
烈は試合中の春成と刃牙の間に割って入って、春成を客席まで蹴り飛ばして
刃牙の正面に立った。
「さあこい刃牙くん! 日本で受けた屈辱を、今こそ晴らしてやる!」
「ちょっと待った」
日米軍のベンチから寂海王がやってきて、烈の肩を軽く叩いた。
「アナタの相手は私でしょう。おとなしく次の出番まで待って……」
「うるへー!」
烈は怒りの正拳を寂の顔面に叩き込んだ。寂の口に拳がスッポリと嵌った。
「む!?」
寂の口から拳を引き抜いて指を開くと、クシャクシャの紙が握られていた。
広げた紙には『範海王は日米軍のスパイだ』と書いてあった。明らかに烈の筆
跡だった。
「裏切り者は許さーん!」
中国軍ベンチに飛んでいって、範を海王ビンタでやっつけた。
「貴様も許さーん!」
返す刀で、ボケーと突っ立っている刃牙の背後に回って中国式バックドロッ
プをお見舞いした。範の連帯責任だ。試合場の地面に穴を掘って二人を埋めて
墓標を立てて線香をあげて、その早すぎる死を惜しんだ。
「オイ、大会をぶち壊すのもその辺にして……」
「アチョー!」
烈は地上最強の勇次郎を撃破した。どうやったのかは分からない。
「郭老師、ドーン!」
中国軍リーダーの郭海皇にも勝った。どう勝ったのかはここでは言えない。
一人残ったミスターがゆっくりと立ち上がった。ガウンを脱いで中央に進み
かけたミスターの目の前に、烈は片腕を伸ばして待ったをかけた。
「お前はいい。帰れ」
ミスターは家に帰った。大擂台賽の最後にみせた、烈の優しさだった。
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