
2004年28号 第210話
【前回まで】
龍の神速の抜拳術に対して、オリバは己の持ち味であるタフネスとパワーで反撃!! オリバの強烈なヘッドバットが龍に炸裂したッ!!
「おー。オリバの野郎、やるに事欠いて頭突きだってよ」
「あんな痛そうな頭突き、見たことないや! さっすがオヤジの友達だよね!」
刃牙と勇次郎が今いるのは、大擂台賽の会場ではない。どことも知れぬ狭い
監禁部屋で、鎖でグルグル巻きにされて大きな釜で煮られている。一瞬のスキ
をつかれて、悪い中国人の罠にはまってしまったのだ。部屋の隅にはテレビが
置いてあって、大擂台賽の生中継をやっている。
「テレビで見るオリバさんって、ゴリラに似ててすげーカッコイイよな! オ
レ何だか興奮して熱くなってきちゃったよ!」
熱いのは釜ゆでにされているからなのだが、刃牙は自分のおかれている状況
をまったく把握していない。
「そうか。そいつはよかった」
絶体絶命の大ピンチにも泰然自若とする息子の大物ぶりに、勇次郎はマグマ
のような熱湯に肩までつかって満足そうに答えた。こんな鎖ごときは簡単に引
きちぎれるはずなのだが、なぜか勇次郎は逃げようとしない。
龍くんとオリバの試合は、完全にオリバのペースとなった。頭突きで朦朧と
した龍くんが手を休めている間に、オリバは早くも十皿目のステーキにとりか
かっている。もはやオリバの勝利は決まったも同然である。
「次はいよいよ刃牙さんの試合だね! 楽しみだなあ、オレ刃牙さんの大ファ
ンなんだ!」
刃牙は自分が誰なのかも分かっていない。期待どおりのバカに育ってくれた
息子へのご褒美に、勇次郎は口で蛇口を回して冷水を出してやった。
「コラコラ、勝手にお湯を冷ましてはイカン!」
テレビを見ていた見張りが勇次郎を振り返って、厳しい口調で叱りつけた。
「うっせーなボケ。だったらこんなところに蛇口なんかつけんな」
「その通りだ! 許す!」
勇次郎の言い分にも一理ある。見張りは素直に納得して再びテレビに没頭し
た。見張りの足元には空のビール瓶が大量に転がっている。
「日本人のお客さんは煮えたかな?」
痩せこけた老人が部屋に入ってきた。郭海皇だ。分かってはいたが、やはり
このジジイが黒幕だった。今までおとなしく捕まってやっていたが、それさえ
確認できればもうここには用はない。勇次郎は見張りを呼びつけた。
「おい、見張り」
「なんじゃい! 見張り様と言わんか!」
見張りの分際で偉そうな口を叩くが、勇次郎は構わず話を続けた。
「郭がお前の顔を見てな、どうして人間の体の上にゲロ袋がのっかっているん
じゃろ、って言ってたぞ」
「死ねー!」
ゲロ袋みたいな顔をクシャクシャにして、見張りは郭を槍で突いた。軽々と
槍をかわした郭の肩が、よけたはずみで壁際のボタンを押した。
ガコンと大きな音がして、釜の下の床が開いた。勇次郎と刃牙は、釜ごと穴
に落ちて監禁部屋から消失した。
「逃げたぞ! 追え、ゲロ袋!」
「ラジャー!」
ゲロ袋は穴に飛び込んだ。郭はゲロ袋の知り合いと思われるのがイヤなので、
しばらくたってから後を追った。
勇次郎と刃牙を乗せた大釜が地中を進む。一寸先も見えぬ闇のトンネルの中
で時おりはねる水しぶきは釜の熱湯か、それとも刃牙の涙か。
「オヤジオヤジ。オレ、新しいオフクロが欲しいんだよね!」
「また今度な。それより、出口が近いぞ」
はるか前方に小さな光の点が見えた。点はみるみる大きくなって、音速を超
えた大釜はシャバの世界に飛び出した。
「ん? ここは……」
到着先は、日本の神心会ビルの道場だった。闘技場に戻るつもりだったのが
道を間違えた。出てきた穴を引き返そうとするところを、道場にいた愚地独歩
が呼び止めた。
「勇次郎、ひょっとして大擂台賽か?」
「そうだ」
「ワシもつれていってくれ!」
独歩は自分の体を鎖で縛って釜に飛び込んだ。三人乗りの釜の行く手には、
追手の郭海皇とゲロ袋が待ち受ける。激突必至!
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