2004年25号 第208話

【前回まで】
ハンドポケットの状態から技を繰り出す居合拳法の使い手・龍 書文。これに対抗すべくオリバもハンドポケットで構えるが、一方的に攻められダウンを喫してしまう!!

 龍くんとオリバの熱戦を、烈海王は見ていなかった。選手入場口奥の通路で
年老いた男女が烈に何事か激しく訴えかけている。龍くんの両親だ。
「あの子は本当はやさしい子なんです! 悪い人間にそそのかされているだけ
なんです!」
「そうだ! 体ばっかりデカくなりおって、なんだあの気色悪い白スーツは!
ブサイクな面には全然似合わないんじゃ!」
 父親と母親とで言ってることがバラバラだが、烈は辛抱強く黙って話を聞い
てやった。
「烈さん、お願いです! 今すぐ龍に闘いをやめるように言って下さい!」
「龍なんぞ大仰な名前をつけよってからに! あんなバカ息子、ポン太で充分
なんじゃい!」
「分かりました。私についてきて下さい」
 烈は重々しく頷いて、二人を伴って歩き出した。
 試合場では龍くんとオリバがどうでもいいクソ試合をダラダラ続けていた。
オリバはソファーに寝そべって映画を見ながら龍くんにキックを繰り出して、
龍くんは本を読みながら片手でそのキックを受け止めている。
「龍さん、ちょっと」
 烈の手招きに気がついて、龍くんは露骨に迷惑そうな顔を烈にねじ向けた。
「いま試合中なんで、用なら後にして……」
 烈の隣に立っている二人の人間の顔を見て、龍くんは言葉を切った。大きな
ため息をついて本にしおりをはさんだ。


 闘技場の中庭には、風雅な築山がしつらえられている。築山の上の白くて大
きな丸テーブルを囲んだ四人はしばし無言であったが、やがて烈が切り出した。
「龍さん。あなたの母親が、あなたに真人間になって欲しいそうだ」
「だから今は試合中なんで、込み入った話はオリバさんを倒した後に……」
「黒人をボコる暇があったら、キチンと就職して社長をボコりなさい!」
 龍くんママがテーブルを叩いて龍くんを叱りつけた。社長をボコったらその
場でクビだと思うのだが、ともかくも一度くらいはまともな仕事についてもら
いたいらしい。
「赤の他人様を殴ってお金をもらって、いつまでこんな生活を続けるつもり?
お巡りさんに仕事を訊かれたら、なんて答えるつもりなの?」
「そりゃまあ、裏格闘家って訳にもいかないから、自営業とかフリーターとか」
「そんな情けない話は聞きたくありません! お父さんからもビシッと言って
やってちょうだい!」
「お前、相変わらずブッサイクじゃのう」
「ほーら、お父さんも怒ってる! 今日はね、これを持ってきたのよ」
 龍くんママはカバンから写真の束を取り出して、テーブルの上に積み上げた。
「私とお父さんがかき集めた、アナタのお見合い相手。どうしても仕事を変え
るつもりがないなら、せめてお嫁さんだけでも決めてもらいますからね」
 龍くんママの迫力に気圧されるように、龍くんは写真に目を通し始めた。烈
も横から写真をのぞき見た。写真は全部チンパンジーの写真だった。龍くんは
極めて物静かな口調で、龍くんママに尋ねた。
「これは、一体何のつもりかな?」
 龍くんママは口の端を邪悪にゆがめて、言った。
「アンタみたいなダメ男には、人間の女なんてもったいないのよ!」
「クソアマー!」
 なんだか風向きが変わってきた。烈はお互いの髪の毛を掴んで殴り合う龍く
んと龍くんママの間に割って入って、仲裁を試みた。
「分かった! 分かったから二人とも落ち着け! 龍さん、私が話をつけてあ
げるから、今すぐ海王になりなさい。そうすれば私のように英雄になれるから」
「ダメよ海王なんて。こんなクソ弱い連中の仲間になったっていい事なんて一
つもないわよ」
 龍くんママはテーブルの上に劉海王の生首を置いた。
「ブサイク海王の返り血を浴びたら、ワシまでブサイクになったような気がす
るわい」
 龍くんパパは毛海王とサムワン海王の生首をテーブルに投げつけた。
「ま、ついでなんで」
 龍くんは残りの海王と郭海皇の生首をテーブルに積み上げた。
「ノー!」
 烈の怒りが爆発した!


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