
2004年24号 第207話
【前回まで】
ポケットに手を入れた状態で相手に対する居合拳法の使い手・龍に、一方的に攻められるオリバ!!オリバはこれに対抗すべく自らもハンドポケットを…!?
「編集くん! お原稿が描けましたでございますよ!」
板垣先生はロレツの回らない口調で叫んで、アルコールのシミだらけの原稿
を編集者に投げつけた。
「マジで!? ボクねぇ、原稿読んじゃう!」
これまたベロベロに酔っぱらった編集者が、ウイスキーのボトルや料理の皿
で一杯のテーブルの上に原稿を広げて、大真面目な顔で読み始めた。酔眼もう
ろうとして、本当に内容を理解しているかどうかは非常に疑わしい。店の女の
子も一緒になって原稿に目を通している。
少年の病室に、龍くんと試合中の筈のオリバがやって来た。オリバの大ファ
ンの少年は大いに感激して、ベッドから身を起こしてオリバにお願いした。
「オリバさん! ボクの病気が治るように、でっかいホームランを打っておく
れよ!」
「オー、イエス!」
オリバは少年をかっ飛ばした。大ホームランとなった少年の体はフェンスを
越え海を越え、遥か中国の大擂台賽会場まで飛んでいった。
少年が落ちた先には龍くんがいた。ポケットに手を突っ込んだままで、状況
が把握できずにオロオロする少年に向かって大喝した。
「待ちかねたぞ、オリバ!」
「ボク、オリバさんじゃないよお」
「そうか! オリバの仇は俺が討つ! 死ね!」
龍くんはポケットから手を抜いて、少年を金属バットで思い切り引っぱたい
た。少年は二打席連続のホームランとなって、元いた病院に帰ってきた。
「少年よ、病気は治ったかい?」
病室には日米連合軍のメンバーが集まっていた。屈強の戦士に囲まれた少年
の容態や、いかに!?
「もうね、読まなくたって分かるの! 先生のマンガ、サイコー!」
やっぱり読んでなかった。拍手をするつもりで両手をスカスカ交差させてい
る編集者の周りで、これはキチンと読んでいたらしい女の子がキョトンとした
顔を上げた。
「なにこれ、訳わかんなーい。この人って、ホントに漫画家なの?」
「このマンガって、どっかで連載してるのー? ジャンプー?」
天下の秋田書店と板垣先生に大変失礼な口を叩くクソバカ女共に、編集者は
ビシッと言ってやった。
「ジャンプでーっす! ドラゴンボールのね、続編なの!」
「ウッソ! ドラゴンボールって、アニメでやってたアレ? すっごーい!」
「先生、超お金持ちじゃん! アタシこの30万円のワイン飲みたーい!」
「わはははははは」
隣の女の子の胸を揉みしだいていた板垣先生が、得意そうに高笑いをあげた。
「じゃあさ、孫悟空とかも出てるんでしょ? どの人が孫悟空なのー?」
「コイツが悟空じゃー!」
編集者は刃牙の顔にフォークを突き立てた。大事な原稿に穴が開いたが、板
垣先生も編集者も全く意に介さない。
「えー、なんか全然強そうじゃなーい。アタシでも余裕で勝てそー」
「そーなの! コイツすっげー弱いの! だから、今日からこのマンガの主人
公、キミと交替!」
板垣先生は刃牙の描いてある原稿用紙を真っ二つに引き裂いて、新しい紙に
女の子の似顔絵を描いた。
「あー! チサトばっかりずるーい! アタシも描いてよー!」
別の女の子が頬をふくらませて板垣先生に抱きついた。本当は羨ましくも何
ともないのだが、酔っ払いをおだてて金を落とさせる手練には一分の隙もない。
「カオルちゃんは、もー出てっから! すっげー強いヤクザだから!」
「そーなの? 先生さっすがー! アタシこの120万円のチーズ食べたーい!」
「わはははははは」
「お楽しみはそこまでだ!」
凛とした声が響き渡った。開け放した入り口から差し込む光が店内の紫煙を
振り払い、一人の男の姿を照らし出した。男は大股で歩き出し、板垣先生と編
集者のテーブルの前で立ち止まった。
「私が本当の板垣恵介だ! 我が名を騙る貴様の罪、万死に値する!」
板垣先生が二人! これは一体!?
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