
2004年23号 第206話
【前回まで】
「Mr.アンチェイン」の通り名を持つ2人の男、オリバと龍が激突!! オリバの怪力に対するは、ポケットの中に手を入れた状態で対する居合拳法だった!!
龍くんの強烈な蹴りをアゴに喰らって、オリバの巨体が宙に浮いた。
オリバはどこまでも昇っていく。遠のく意識の中で、オリバは自分の周りを
上から下へと流れ去っていく無数の星々の光を感じていた。
「地球よ、さらば……」
オリバ、広大なる宇宙へ!
は、一歩届かなかった。オリバが意識を取り戻すと、そこはまだ闘技場の中
だった。天井に手が届きそうな高さまで舞い上がって、眼下の龍くんが豆粒み
たいに小さく見える。ふと客席に目をやると、二階スタンドの通路で小さな男
の子が泣いている。親とはぐれたか、凄惨な死闘は幼い心に刺激が強すぎたか。
「いま助けにゆくぞ、少年!」
あまり龍くんを待たせるのも可哀想だが、困っている人間を見捨てて平気で
いられるオリバではない。手足を必死にバタつかせて、空中遊泳で男の子の下
に辿り着いた。
「どうした少年! このオリバ様が力になってあげよう!」
「ピンを落っことしちゃったんだよぉ」
男の子はずっと泣きじゃくっている。きっと大事なピンだったのだろう。オ
リバは男の子の涙をぬぐってやって、一緒にピンを探し始めた。通路の壁際、
椅子の下、闘技場に放し飼いの豚の糞便の中。ピンはどこにも見当たらない。
そういえば、オリバは男の子のピンを見たことがなかった。
「ところで少年。そのピンってのは、一体どんなピンなんだい?」
男の子は、ピンを引き抜いた手榴弾をオリバの口に押し込んだ。
「これのピンだよぅ」
ドカーン!
手榴弾は爆発した。オリバ、死して伝説に!
は、ならなかった。体を鍛えていたおかげで、口の中をちょっと切った程度
のケガですんだ。よかったよかった。
オリバがスタンドから戻ってきた。龍くんはポケットに手を突っ込んで、得
意の居合いの構えをとった。我流のオリバは自然体で龍くんに対峙した。
「龍さん、そろそろ決着をつけようじゃありませんか」
「よかろう!」
オリバも龍くんも動かない。張り詰めた空気が場内に充満する。観客も選手
も固唾を呑んで勝負の行方を見守る中、豚の頬を流れる一筋の汗が雫となって
床に跳ねた。それが試合再開の合図となった。
「あばらばー!」
オリバが動いた。自慢の筋肉を躍動させて、龍くんに向かって一直線に突進
した!
最大トーナメント戦士、死刑囚、そして園田警視正。日本に残った男達が同
じ日の同じ時刻、一斉に空を仰いだ。吸い込まれそうな蒼天の彼方に、男達は
同じ幻影を見た。強さと自由を手に入れた黒人の、人なつこい笑顔の幻影だ。
男達はまぶしそうに目を細めて、そして同じセリフをつぶやいた。
「地上最自由、か……」
アンチェイン・オリバよ、永遠なれ!
当のオリバはそれどころじゃない。龍くんの攻撃を紙一重でかわして、空い
た龍くんのポケットに自分の両手をねじ込んで龍くんの居合いを封じ込んだま
ではよかったが、オリバ自身も身動きがとれなくなった。
オリバは動けない。龍くんもまた動けない。長い膠着状態の果てに、二人は
とうとう音を上げた。
「お互い、打つ手なしですな」
「そうですね」
「これ以上試合を続けても、何のプラスにもなりませんな」
「呼んじゃいますか」
「呼んじゃいましょう」
龍くんが意味不明の奇声を発すると、巨大なブーメランが闘技場の壁を突き
破って飛んできた。オリバと龍くんはブーメランの背に仲良く飛び乗った。
ブーメランは飛び去った。二人の新たな人生に、幸あれ!
ブーメランなので二人は闘技場に戻ってきた。二人の熱闘はまだまだ続くよ!
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