
2004年21+22号
第205話
【前回まで】
中国連合軍VS日米軍の第1戦目は「Mr.アンチェイン」オリバVS龍 書文!! 生涯無敗と言われている龍の通り名もなんと「Mr.不可拘束」。2人の「アンチェイン」が激突する…!!
【ウソバレ的・前回まで】
中国連合軍VS日米軍第一試合。後がないオリバはレフェリーの控え室を訪れたが、龍書文の姦計に陥って最後のワッペンを失ってしまった。「Mr.アンチェイン」オリバ、敗退か!?
レフェリーが闘技場に戻ってきた。黙然として椅子に座っている龍くんの正
面に、小さな額を置いた。オリバの遺影である。
「これは?」
怪訝な表情で問いかける龍くんに、レフェリーは静かに答えた。
「オリバ選手は、不慮のアクシデントにより帰らぬ人となった」
龍くんはしばし目を閉じた。激闘を制した充足感と、儚くも散ったもう一人
のアンチェインの雄姿に思いを馳せ、噛みしめるようにつぶやいた。
「そうですか。オリバさんは死にましたか」
「そういう訳だから、ここから先は私がお相手しよう」
激闘は終わってはいなかった。日米軍のリザーバーとして、レフェリーが龍
くんとの勝負を引き継ぐことになった。龍くんにも異論はないようだ。
試合再開。レフェリーは龍くんと向かい合って座り、龍くんに話しかけた。
「死刑囚のメッセージだが、あれは五人分用意してあるのかな?」
「もちろん全員分揃ってます。闇格闘家だってやる時はやるんです」
龍くんはグイと胸を張った。トレードマークの口ヒゲがいかめしい顔によく
似合っている。
「よかったら、まだ使っていないビデオを見せてもらいたいのだが」
「オリバさん以外の方がご覧になっても面白くないと思いますよ」
「それでも構わん。レフェリーたってのお願いだ! この通り!」
レフェリーはテーブルに手をついて頭を下げた。天下のレフェリーにこうま
でされては、龍くんもイヤとは言えない。新しいビデオデッキとテレビをテー
ブルに置いて、再生ボタンを押した。
「ども、オリバです」
テレビにはオリバが映っていた。地べたに敷いた布団にくるまって、弱々し
げな目をカメラに向けている。
龍くんの顔にかすかに動揺の色が浮かんだ。確かこのテープは、柳龍光のオ
リバ特別監房潜入ルポだったはずだが……。
「レフェリーさん、まさかアンタが?」
テープをすり替えたのかという問いに、レフェリーは黙ってテーブルにおで
こをこすりつけたままだ。見たいと言った割には、全然映像を見ていない。
VTRは続く。
「死ぬ前に、龍さんに謝らなければならんことがある。龍さんの口ヒゲな、あ
んまり犬のクソに似ていてうっとおしかったんで、龍さんが寝ている間につい」
龍くんはハッと鼻の下に手をやった。
「剃っちゃった。ゴメンネ」
指でつまんで引っ張ると、ヒゲはいとも簡単にはがれた。ズッシリと重く、
かすかに湯気が立っている。それはヒゲではなく、犬のクソだった。
「そしてこれがアンタの本当の口ヒゲだ」
レフェリーが顔を上げて、額の写真を裏返した。顔に生えていたのと寸分違
わぬ形に、龍くんの口ヒゲが貼り付けてあった。
「カミソリの刃を三枚もダメにした。なかなかの剛毛だったぞ」
「テメーもグルかー!」
控え室でのオリバと同じ台詞を吐いて、龍くんはレフェリーに殴りかかった。
「どりゃ!」
身を乗り出した龍くんの眉間に、レフェリーは人差し指を突き立てた。軽く
触れただけなのに、龍くんは全く身動きができなくなった。レフェリーは彫像
のように固まった龍くんの胸から、ワッペンを一枚はがした。龍くんのワッペ
ンは残り一枚になった。
「おらー!」
龍くんの頭上から黒い影が降ってきた。オリバのフライングボディアタック
だ! 無防備の龍くんを椅子ごと押しつぶして、二人で床を転げ回った。
「ワッペンよこせー!」
「絶対イヤじゃー!」
最後のワッペンをかけた二人のとっくみ合いにベンチの選手達も加わって、
両軍入り乱れての大乱闘となった。血で血を洗うワッペン争奪戦に心を奪われ
て、選手も観客もレフェリーの姿が消えたことに気がつかなかった。
レフェリーは闘技場の外にいた。すでに遠くなった闘技場を振り返って、
「次代を担う若者達よ、精進を怠るなよ。私はいつでもお前たちを見ているぞ」
そう言って再び歩き出し、雑踏の中に消えていった。
その後のレフェリーの行方は誰も知らない。
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