
2004年16号
郭海皇、烈海王、範海王、春成、龍くんの五名が集結し、ここに中国連合軍
が完成した。
「で、次はどうすんだジジイ」
烈が郭に向かってえらく横柄な口を叩いた。郭の目に一瞬殺意が走ったが、
国から年金をもらっている身分では強く言い返すこともできない。ぐっとこら
えて、烈の問いに答えた。
「そうじゃ、この五名をもって……」
「まずは役割分担を決めよう」
範海王が郭の言葉を遮った。何だこのガキ。郭の手刀が一瞬鈍い光を放った
が、ここでもめるとせっかくの青写真がパーになる。怒りを胸にしまい込んで
範の言葉に従ってやることにした。
「役割分担、か。とりあえず先鋒はワシの息子の……」
「そうじゃなくて。まず毛の死体は誰が処理すんだよ」
ジジイの世迷い言につきあってやるだけ有難いと思え。海皇だからといって
雑用回りを全部俺達に押し付けられるのはガマンがならない。要はそういう事
らしい。海皇に対するリスペクトのかけらもない範を呆然と見つめる郭を尻目
に、着々と仕事が割り振られていく。
毛海王の死体処理は、当然手を下した郭にやってもらう。招待選手にルール
の変更を申し入れるのも、詳細を知らない四人にはちと難しい。これも郭にお
願いしよう。帰りの交通費だって馬鹿にはならない。誰かに家まで送ってもら
いたいところだが、免許を持っているのは郭一人だ。自動的に運転手は郭にな
る。便所掃除は別に選手がやる必要はないのだが、この際だから郭に任せちゃ
おうっと。
「ちょっと待て! 面倒事はぜーんぶワシか!」
「たりめーだろ。ジジイ、何でもできるから偉い海皇様になれたんだろ。だっ
たら何でもテメーでやれよジジイ」
「おら、日が暮れちまうぞジジイ。さっさと外人連中んとこ行って話つけてこ
いよジジイ」
春成と龍くんが郭を爪先でど突きまわす。老人に鞭打つ非情な仕打ちに、温
厚な郭もさすがにキレた。
「わーったわい! ワシが一人で何でもかんでも、テメエらガキの下の世話ま
でぜーんぶやってやるわい!」
「下の世話が必要なのはジジイのテメーだろ。何ぶっこいてんだジジイ」
「おら、俺達もついてってやるから、キリキリ動けよジジイ」
キレたというか開き直った郭が、毛の死体を担ぎ上げてプリプリ歩き出した。
途中の厨房の大鍋に毛の死体をぶち込んで、五人は招待選手の控え室に到着
した。
「開けろコラー! 郭海皇様のお出ましじゃー!」
ヤケクソにドアをノックすると、半分だけ開いたドアから刃牙が顔だけ出し
た。ルール変更の旨を告げると、刃牙はちょっと待てといってドアを閉めた。
数分後、さっきよりもさらに細く開いたドアの隙間から、一枚の紙切れが郭
の足元に落ちた。郭は紙切れを拾い上げて目を通した。
希望対戦表
先鋒 郭vs郭
次鋒 郭vs郭
中堅 郭vs郭
副将 郭vs郭
大将 郭vs郭
結論:一人で勝手にやってろジジイ
「………」
郭は穴が開くほど紙切れを見つめている。郭の後ろから四人が紙切れを覗き
込んで、納得した様子で控え室に引き返した。
通路の照明が落ちてあたりが闇に閉ざされても、郭は紙切れを見つめてその
場に佇んでいた。
いつまでも、いつまでも佇んでいた。
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