
2004年12号 第198話
【前回まで】
100年に1度開催される中国最大の武術大会・大擂台賽。三合拳の陳と日本より来た空拳道の使い手・寂が激突。一方、バキは父・勇次郎の前に姿を現す。激突必至!!
「親父……話がある」
バシュン!
猛烈な突風が刃牙の右から吹き付けた。間をおかず、今度は左からの衝撃波
が刃牙の顔を醜く引きゆがめる。右、左、右、左。交互にめくれあがる顔面の
皮膚を押さえつけながら、刃牙は一枚のベニヤ板を廊下の壁と垂直におっ立て
た。
立てた瞬間、ベニヤ板に人型の穴があいた。背格好といいウザい長髪といい、
間違いない。風の正体は勇次郎だ。大体、髪の形に穴があくこと自体、勇次郎
の仕業以外には考えられない。
何故かは分からないが、控え室へと通じるこの長い廊下を、勇次郎は超高速
で行ったり来たりしているのだ。とても話を聞いてもらえるような状況ではな
い。何とかして勇次郎を止めなければならない。
オリバを廊下まで連れてきた。訳が分からぬといった顔のオリバのポケット
に小銭をねじ込んで、廊下に仰向けに寝そべってもらった。オリバにつまづい
て勇次郎がコケてくれれば儲けもの、ということだ。
ザクザクッとものすごい音がして、オリバの大胸筋にキャタピラの轍がつい
た。次から次へと轍が刻まれ、あっという間にオリバの胸は真っ黒になった。
キャタピラ? という事は、親父は乗り物に乗っているのか。そうなるとオ
リバ程度の段差など苦もなく踏み越えてしまっても不思議ではない。うめき声
一つ立てないオリバのタフネスも大したもんだが、役立たずには用がない。適
当にねぎらいの言葉をかけて、オリバにお引取り願った。
「やあ、バキく……」
奥の曲がり角からやって来た烈海王が、顔を見せたと思った瞬間にその姿を
消した。勇次郎に巻き込まれてしまったらしい。廊下にじっと視線をこらすと、
確かに烈の三つ編みらしき残像が見える。
その手があったか! 勇次郎を止められないなら、自分が勇次郎と同じスピ
ードで動けばいい! わずかなためらいも見せることなく、刃牙は両手を広げ
て廊下のど真ん中に立ち、勇次郎の突進を待ち受けた。
さあ来い、オヤジ!
ドンッ!
それは小型のリングだった。二畳に満たないキャタピラ付きのリングの上で
勇次郎は憑りつかれたようにスクワットを繰り返していた。烈は勇次郎の隣で
ラーメンをすすっている。
刃牙はすべてを理解した。そうか! 努力する姿を人に見せたくない親父は
こうやって猛スピードの中でトレーニングにはげんでいたのか!
「親父、俺もつきあうよ!」
「おう、やれやれ」
外界の景色が、爆発したように後方に流れ去る。音速を超えたリングの上で
範馬親子がスクワットに汗を流す。
フンハ、フンハ、フンハ、フンハ。
「ところで刃牙、話ってのは何だ?」
「親父、オレ何だかすっげえ強くなったような気がするよ!」
「そうか。もっとやれ、もっとやれ」
フンハ。フンハ。フンハ。フンハ。
烈のラーメンをすする音が、スクワットの息遣いに重なる。
フンハ。ズー。フンハ。フンハ。ズー。
フンハズー。
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