
2004年09号
オリバの怪力によってペシャンコに潰された楊海王が、意気揚々と闘技場を
引き揚げた。敗れたとはいえ、勝者のオリバに一歩も引けをとらない白熱の好
勝負であった。
通路に溢れかえった楊のファンが、健闘を称えて手の平を頭上高く差し出す
が、180度に反り返った上体を床にひきずる現在の楊にはそこまで手が届かな
い。ハイタッチに応える楊の腕は、スカスカと空振りを繰り返すのみである。
しかし、ファンはそんな細かい事は気にしない。万雷の拍手に包まれて、楊は
敗者控え室のドアをくぐった。
「楊くん、ナイスファイト!」
「楊くん、敗者の楽園へようこそ!」
控え室に入るとすぐさま、そんな祝福のお言葉を頂戴した。声の主に挨拶を
返したいが、楊には天井しか見えていない。声の方向にケツを向けて、ブリッ
ジの要領で必死に首を立てると、上下逆さまながらもようやく目線が前を向い
た。
偉大なる負け海王の先輩達が、そこにはいた。股間にぶ厚く包帯を巻いた除
海王、役に立たない毒手を切り落として、代わりにくっつけた麩菓子をむさぼ
り食う李海王、伸びきった玉袋の上にあぐらをかいて宙に浮かんでいるサムワ
ン海王。そして、畳を積み上げた特設台にふんぞり返った、顔面の筋肉むき出
しの老海王。言わずと知れた劉海王である。敗者一番乗りの劉が、ここでは一
番の権力者という訳だ。
感激しきりの楊の顔から、笑いが消えた。いつか必ず、あの玉座にのぼって
やる。敗者の頂点に立つのは、この楊海王だ!
新たな野望に、二つ折りになった体を激しく震わせる楊であった。
「あ!」
テレビを見ていた李が、麩菓子を口から噴き出して叫び声をあげた。楊に気
を取られていた他の海王が、何事かと李を振り返る。楊もペンギンみたいに足
をばたつかせて体全体を李の方へ向けた。体勢が体勢なので、向きを変えるだ
けでも一苦労だ。
テレビでは、大擂台賽の第六試合が中継されていた。烈海王と毛海王の闘い
は、誰もが予想だにしなかった結末を迎えた。それまで優勢に試合を進めてい
た烈の一瞬の隙をつき、毛が烈のバックをとった。後ろから羽交い絞めに抱え
込んで、巨大なミートチョッパーに烈を投げ込んだのだ!
「烈が負けた!」
世紀の大番狂わせに、控え室の海王が一斉に色めきたった。この控え室に烈
がやって来る! 史上最強のライバルの出現に、現王者の劉はもちろんひそか
に権力の座を狙っていた他の海王達も、恐怖に顔を引きゆがめた。
どうする、負け組海王!
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