
2004年01号
「サムワンッッ! サムワンッッ!」
師匠の蘇柳勝の呼びかけに、サムワン海王はピクリとも反応しない。立ち去
りかけた勇次郎がクルリと踵を返して戻ってきて、サムワンの股間に強烈なロ
ーを叩き込んだ。特に意味はない。
その足で医務室を訪問した。劉海王がベッドに寝転んで、ポテトチップをポ
リポリやりながらテレビを見ている。顔の怪我は完全に治っている。
「もう一回剥いてもいいか」と聞くと「いいよ」と言うので、今度は左手を劉
の右頬あたりに差し込んで、一気に顔の皮をはぎとってやった。はずみで、劉
が口にくわえていたポテトチップがベッドに落ちた。チッと舌打ちして劉はポ
テトチップを拾い上げ、軽く埃を払って口に放り込んだ。
再びテレビに没頭する。目の前の勇次郎は完全シカトの方向である。
これ以上ここにいても仕方がない。勇次郎は、昼下がりの医務室を後にした。
「サムワンッッ! サムワンッッ!」
通路では、蘇柳勝がサムワンを介抱し続けている。蘇柳勝もサムワンも昼食
の肉まんを頬張っている。勇次郎は、仰向けのサムワンの横腹に二度目のロー
をお見舞いした。サムワンは激しくむせ返り、食いかけの肉まんを口から吐き
出した。チッと舌打ちして、蘇柳勝がその肉まんを拾い上げ、埃を払ってサム
ワンの口に押し込んだ。今度はキチンと飲み込んだ。指の爪で歯をほじくるサ
ムワンに、蘇柳勝が呼びかける。
「サムワンッッ! サムワンッッ!」
返事はない。まだ意識は戻らないようだ。勇次郎は通路を先へ進んだ。
中庭には川が流れている。ドリアンとオリバが、河原にしゃがみこんで川の
流れを見つめている。「何やってんの」という勇次郎の問いかけにオリバは一
言「リハビリ」と答えた。傍らのドリアンが水面に腕を走らせると、一匹の魚
が跳ね上がって河原に落ちた。魚の腹には『ド』と書いてある。
続けざまに二匹目の魚をゲットした。今度は『リ』だ。うつろだったドリア
ンの目が妖しく輝き、その魔光に魅入られたかのように三匹目の魚が宙を躍っ
た。
腹の文字は『フ』だった。オリバはオーといって額に手を当てて、『フ』の
魚を川に戻した。『ア』の魚を虎視眈々と狙い続ける二人を尻目に、勇次郎は
場内へ引き返した。
「サムワンッッ! サムワンッッ!」
まだやってる。今は蘇柳勝一人だ。サムワンがぶっ倒れていた床には書置き
が残されている。『トイレに行ってきます。サムワン』とある。勇次郎はトイ
レへ向かった。
一番奥の便器で、サムワンが口笛を吹きながら小用を足している。他には誰
もいないトイレだが、勇次郎は敢えてサムワンの隣の便器に立った。ファスナ
ーを下ろしながら、サムワンに向かって言った。
「サムワンッッ! サムワンッッ!」
「アチョー!」
サムワンの怒りのハイキックが勇次郎に襲いかかった!
勇次郎vsサムワン場外乱闘、開始!
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