2003年51号 第191話

【前回まで】
100年に1度開催される中国最大の武術大会・大擂台賽、前大擂台賽優勝者・郭 海皇は勇次郎に「弱い」と言い放ち、ムエタイの使い手・サムワン海王と対峙した…!!

 試合開始の銅鑼が打ち鳴らされた。中国拳法とムエタイの威信をかけて郭海
皇とサムワン海王が闘いの火花を散らす。サムワンの鋭い蹴りをミリ単位の見
切りでかわして、郭が拳に気を練りこんで叩き込む。
 一進一退の攻防に白熱する闘技場の壁が崩れて、ブルドーザーが突っ込んで
きた。大きなショベルで郭とサムワンを掬い上げると反対側の壁をぶち破って
表に走り出た。
 幹線道路を爆走するブルドーザーのショベルの中で、二人は闘いを続ける。
助手席の女性が、ドライバーの膝のあたりを指先で撫でておねだりするように
小首をかしげた。
 ドライバーの鼻の下がだらしなく伸びた。もう仕事なんてやめやめ! ブレ
ーキペダルを力一杯ふみこんで、女性を押し倒して大股を広げ、こちらでも戦
闘が始まった。急ブレーキの衝撃で、郭とサムワンは大きく宙に投げ出された。
 落ちた先は豪華客船の甲板だった。太平洋のど真ん中で、二人の熱闘はます
ますヒートアップする。快適な海の旅を楽しむ乗客の頭上を、突然不気味な影
が覆った。
「船長! 前方に巨大な氷山が現れました!」
「よし! 突撃ー!」
 無謀な挑戦であった。砕けてひしゃげてV字形になった豪華客船が、黒煙を
巻き上げて海の底へと沈んでいった。
 偶然通りがかったイルカの群れに助けられた郭とサムワンは、イルカの背の
上で死闘を繰り広げる。水平線の向こうに陸地が見えるが、イルカの勢いは止
まらない。砂浜に乗り上げ野を越え山を越え、猛スピードで一軒の民家になだ
れ込んだ。サムワンの実家である。
「おやお帰り。ご飯はすませてきたのかい?」
「あとで食うから、適当に用意しといてくれ」
 母親との再会を喜ぶ暇もあらばこそ、渾身の肘を郭に薙ぎつけるサムワン宛
てに、その時一通の封筒が届いた。封筒の中身は中国行きの飛行機のチケット
が二枚。中国ペア旅行が当たっちゃった! やったね! 大急ぎで旅支度を整
えて、郭と共に空港へ向かった。もちろんお互い蹴ったり殴ったりしながらで
ある。飛行機の中でもずっと戦っていたが、勝負はつかなかった。


 闘技場に舞い戻った郭とサムワンは、ようやく距離をとって闘いの手を休め
た。
「さて、と」
 ほっと一息ついた後、両者おもむろにパンツをずり下ろして、毛むくじゃら
の陰嚢をつかんで激しく引っ張った。郭の陰嚢がポロリともげた。サムワンの
陰嚢はもげなかった。
 郭海皇の勝ち。


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