2003年48号

 李海王は死んだ。天国へ昇った李の魂が雲の上から目撃したのは、呪縛から
解放された李の肉体の怒涛の反撃ラッシュであった。
 李の魂の落ち込みは一通りでない。魂の俺がいなくても、肉体の俺は立派に
やっていけるんだ。いや、むしろ魂の俺はお荷物でしかなかったのか。
 頭を抱える李の魂の肩に、そっと手が置かれた。振り返ると、懐かしき劉海
王の姿があった。微笑みをたたえたその顔は無論ズル剥けである。闘技場とは
反対側の雲の端に李を連れていって、下界の大学を見るように言った。文化祭
で賑わうキャンパスでは、学ランに身を包んだ劉の肉体が数名の女子と戯れな
がら、屋台のタコ焼きを頬張っていた。拳法しか能のなかった魂に別れを告げ、
青春をやり直している劉の肉体は、はちきれんばかりの喜びに満ち満ちている
ようだ。
 李の魂と劉の魂はお互い皮肉な笑いを浮かべた。もう現世には俺達の居場所
はないんだ。頑張れ、俺達のボディ。そして、今まで迷惑かけてすまなかった。
 二人の魂の目の前に、二つの巨大な門がそびえ立っている。右の門には『針
山天国』、左の門には『血の池天国』と書かれている。
 劉の魂が先に歩き出した。李の魂をチラリと振り返って、針山天国の門へ向
かった。重々しく開かれた門をくぐると、門の奥から狂ったようなかん高い笑
い声があがり、そして重々しく扉を閉ざした。
 残された李の魂は、血の池天国の門を仰ぎ見た。小さくため息をついて歩き
出そうとした李の魂の目の前に、突如光の柱がたばしった。
 光の中から刃牙の魂が現れた。李の肉体が、刃牙との死闘を制したのだ。勝
敗の決した闘技場では、刃牙の肉体に馬乗りになった李の肉体がなおも刃牙の
肉体に毒手のパンチを浴びせている。レフェリーも他の選手も、誰一人として
李を止めようともしない。梢江がビデオカメラを回してキャッキャとはしゃい
でいる。日本に帰ってマニアに高額で売りさばくつもりなのだろう。
 雲の切れ間から一部始終を見ていた刃牙の魂の落ち込みは一通りでない。魂
の俺もいい加減クズだったが、肉体の俺もダメだ。範馬刃牙、何から何までの
び太以上のゲロカスだ!
 頭を抱える刃牙の魂の肩に、李の魂が後ろからそっと手を置いた。
「そんなことはない。たび重なる休載にもめげず、君はよく頑張った。刃牙君
こそ、少年チャンピオンの最大の功労者だ!」
「李さん!」
 刃牙の魂と李の魂はヒシと抱き合った。その瞬間、二人の前に新しい門が出
現した。
『連載終了天国』
 二つの魂は手に手をとって、連載終了天国の門の奥に消えた。
 今はただ、ゆっくりお休み。


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