
2003年47号 第188話
【前回まで】
100年に1度開催される中国最大の武術大会・大擂台賽。毒に侵された身のバキは、毒手の使い手・李 海王の猛攻にダウンを喫する。しかし梢江の涙がバキの体に触れた時、バキの中で何かが起こった!! バキ、完全復活か…!?
水も食料もとうに尽きた。広大な砂漠のど真ん中で、刃牙の体力は限界に達
していた。
トイレで用を足して、身も心もスッキリした刃牙が軽い足取りで通路を右に
曲がると、見たこともない空間に出た。あれ、道を間違えた。それでも委細構
わず前へ進む。天井が消え、壁がなくなり、大理石の床は土の大地に変わり、
気がつくと見渡す限りの砂漠に立っていた。いま闘技場で李海王と闘っている
のは、刃牙によく似た掃除夫のオッサンである。
雲ひとつない青空に、灼熱の太陽が燃えている。しかし刃牙は汗一つかいて
いない。カラカラに干からびた刃牙の体が、前のめりに倒れて砂中に没した。
遠のく意識の片隅に、梢江の笑顔が浮かんで消えた。悪夢を振り払うかのよう
に顔を上げると、霞んだ視界の遥か彼方で何かがきらめいた。
オアシスだ! 最後の力を振り絞って駆け出して、辿り着いたオアシスの水
に手を浸した。冷たい。ゴクリと喉を鳴らして水をすくった両手を口元に近づ
けた。
「危ない!」
左側頭部に強烈な一撃をもらって、刃牙は枯れ木のように無様に吹っ飛んだ。
水はまだ飲んでいない。ヨロヨロと起き上がって顔をあげると、烈海王が中段
蹴りを放った姿勢のまま立っていた。いま闘技場で『裏返ったァッッ』などと
ぬか喜びをしているのは、烈によく似たバービー人形である。
水が飲みたくて暴れる刃牙を足で押さえつけ、烈は携帯電話でどこかに連絡
を入れた。ほどなく数台のダンプカーが地響き立ててやってきた。満載の土砂
をオアシスの水の上にぶちまけて帰っていった。
たっぷりと水気を吸った土砂に、烈は指で穴をあけて一粒の柿の種を植えた。
この種がやがて芽ぶいて木になって、いつの日か真っ赤な柿の実をたわわに実
らせることだろう。希望に満ちたオアシスの行く末に思いを馳せて感無量の涙
を流す烈の横面を、刃牙は渾身の力でぶん殴った。顔面を醜く歪ませて、今度
は烈が吹っ飛んだ。
「何てことすんだテメー! 柿の木? いつの日か? いま水飲まなかったら
死んじまうだろ!」
「うっさいボケ! さるかに合戦読んで人生やりなおせ! この刹那主義者!」
大泣きで口答えをする烈の目が、ふと大きく見開かれた。その視線の先を刃
牙も見た。山になった土砂から、人間の腕が突き出していた。
喧嘩などしている場合ではない。二人で協力して土砂を掘り返すと、見覚え
のある男が埋まっていた。李海王だ。すでにこときれている。いま闘技場で刃
牙と闘っているのは、李によく似たチンパンジーである。
走り去ったはずのダンプカーが戻ってきた。荷台には土砂の代わりに大擂台
賽の全審判団と選手全員があぐらをかいて座っていた。
これは一体!?
闘技場では、男女の観客が全裸になってからみ合っていた。いま闘技場で行
われているのは、大擂台賽によく似た乱交パーティである。
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