
2003年45号 第186話
【前回まで】
100年に1度開催される中国最大の武術大会・大擂台賽。中国において最強の毒手の使い手である李 海王の猛攻の前にバキは………!?
中国のビジュアルシーンでは、スローモーション効果が大流行である。李海
王と刃牙の一戦にも、いかんなくスローが活用された。ただし映像的にエフェ
クトを施した訳ではなく、李も刃牙もスローでしか動けないのである。刃牙は
毒による筋力低下、李は原辰徳の辞任によるやる気の低下が主な原因である。
どのくらいスローなのかというと、日本の空港から旅客機が離陸したのと同
時に繰り出した李のパンチが、その旅客機が中国に到着した頃ようやくバキの
顔面に触れるか触れないか、という有様である。
旅客機にタラップが横付けされ、愚地独歩が中国の地に降り立った。
大擂台賽の噂はかねてから聞いている。自分が招待されなかったことに内心
ムカつきながらも無関心を装っていた独歩だが、本屋で選手名鑑を立ち読みし
て目を瞠った。郭海皇を名乗る大会最年長のジジイが、行方不明の夏恵に瓜二
つなのだ。
こうしちゃいられない。大擂台賽に殴り込んで囚われの夏恵を奪還し、つい
でに自分を除け者にした運営サイドに嫌味の一言もかまさないと気がすまない。
野望と憎悪に燃えた、独歩の訪中である。
のっけから、独歩は大いに困惑した。夏恵の顔などとうの昔に忘れた独歩の
目には、中国人と夏恵の区別が全くつかないのだ。その辺のオバサンもチャイ
ニーズマフィアも、ガキも犬コロも全部夏恵に見える。ぶらりと立ち寄ったラ
ーメン屋のオッサンも夏恵、そのオッサンの持ってきたラーメンまでが夏恵に
ソックリなのである。
というより、このラーメンが正真正銘の夏恵のような気がする。いや、きっ
とそうに違いない!
「おお、夏恵!」
丼をひしと抱きしめた独歩が、猛烈な勢いで麺をすすり始めた。
李のパンチが、刃牙の頬に3ミリほど食い込んだ。刃牙の口がわずかに動い
て『や』の形をつくった。おそらくこの後「ーらーれーたー」と続くのだろう
が、それはまだまだ先のお話である。
麺もツユもシナチクも、まさしく夏恵の味がした。愛する妻との再会を果た
した独歩だが、まだ日本へは帰れない。もう一つ大きな仕事が残っている。大
擂台賽のお偉方へのイチャモンである。満腹感で一度は収まった怒りに、再び
火がついた。あのクソジジイ共、言い訳なんぞしやがったらぶっ殺してやる!
大会本部に怒鳴り込んだが、たちまち蹴り出されて鍵を閉められた。仕方が
ないので、受付でチケットを購入して正規に入場する。
指定の座席を探していると、通路に何やら人だかりができている。ファンに
囲まれて『郭海皇』とサインをしたためているジジイの顔を見て、独歩はまた
も目を瞠った。選手名鑑の写真にも驚いたが、実物はそれ以上に夏恵に生き写
しなのだ。やっぱりこいつが夏恵なのか? だとすると、先ほどのラーメン夏
江は一体!?
李と刃牙が控え室でケツをかいている。毒手でケツかいて大丈夫か、と首を
かしげる刃牙を無視して、李のもう片方の毒手が股間にのびる。
コンコンと、ドアが静かにノックされた。休憩時間終了の合図だ。面倒くさ
いので、二人してスローで闘技場に戻ることにした。
試合再開は、約12時間後の予定である。
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