
2003年44号
李海王の連打を浴びて、刃牙は体中から血を噴き出した。足元に広がった血
溜まりは、強力な毒に冒されて墨汁のようにどす黒い。
刃牙にしてみればたまったものではない。せっかくここまで育ててきた毒を
むざむざ手離してたまるか。タイムをとって止血をし、大事な大事なお毒さま
の流出を食い止める。
刃牙の脳髄に閃光が走った。今日に至るまでの周囲の人間の様々なおせっか
いがフラッシュバックする。強制入院、神様人形、飛騨の山篭り、梢江との野
獣セックス、中国拉致、大擂台賽。
悪気はないんだろうと思って黙っていたが、もしかしたらコイツら、よって
たかって俺の毒を消そうとしてるんじゃないのか? そういえば中国に来てか
ら出された食事はいつも薬臭かったが、あれも薬膳料理だったのかもしれない。
全部食っちまったよ。最高にマズかったけど、それしか食い物がねーんだもん!
刃牙を纏っていた神秘のオーラが、怒りの色に変わった。お前らがそのつも
りなら、俺にも考えがある!
刃牙は背中の風呂敷包みを解いてリングに広げた。風呂敷の中身は猛毒のア
ンプルとカップラーメンだった。大量のアンプルを割ってラーメンにかけて一
気に平らげると、そのまま布団を敷いて寝てしまった。
刃牙の体内の毒は、壊滅の危機に瀕していた。治療と称する数々の迫害を受
けた上に、新たな毒物の供給もストップしたままの毒の民達を待つのは死か、
それとも更なる苦しみか。
民の一人が天を見上げ、うつろな目を大きく見開いた。毒が、毒が降ってく
る!
絶望の闇を切り裂いた毒ラーメンが恵みの雨となって、乾いた大地、つまり
刃牙の胃袋に降り注ぐ。毒の民の歓喜の声が響き渡った。これで俺達は救われ
る! バンザーイ!
熟睡中の刃牙にドリアンがのそりと歩み寄って、よだれの止まらないその口
を刃牙の口に押し付けた。舌もとろけるようなディープキスである。
涙を流して喜び合う毒の民を、再び悲劇が襲った。ラーメンと共に降臨した
老戦士ドリアンが、毒の民の粛清を始めたのだ。ドリアン本体はウスバカだが、
この分身は完全無欠の正気である。女子供にも容赦なし、悪い毒どもをバッタ
バッタとやっつけていくドリアンは、まさに僕らのヒーローだ。
算を乱して逃げまどっていた民の悲鳴がピタリとやんだ。大路にひしめいた
民の群れが真ん中から割れて、一人の男がドリアンに向かって歩いてきた。
「そこまでだ、ドリアン」
毒の王様、柳龍光である!
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